大津地裁(滋賀県)が3月9日、再稼働して間もない関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)をめぐる裁判で、住民の訴えを認め、運転差し止めの仮処分決定を出したことが、こうした住民の動きを後押しした。同地裁は、福島の事故の原因究明は「まだ道半ば」の状況で、事故後に策定された原発の地震・津波対策や避難計画には「危惧」や「疑問」があると判断した。
原発の再稼働をめぐる裁判は、いま全国各地で起こされている。原発の運転の可否が、司法の場であたりまえに争われる時代になった。
こうした社会の変化の源は、もちろん福島第一原発事故だ。福島では、いまも広大な避難指示区域が設けられ、9万人近くが避難生活を強いられている。
そのうえ、原発は極めて特殊な施設だ。電気をつくるだけなのに、使用済み核燃料から生まれる「高レベル放射性廃棄物」は放射能が強すぎて人が近づけず、放射能が弱まるまで、10万年程度は人間社会から遠ざけておく必要がある。
そうはいっても、10万年は途方もなく長い期間だ。約10万年前、私たちの祖先は別の人類「ネアンデルタール人」などと共存していた。ネアンデルタール人の滅亡は2万数千年前とされる。10万年のスケールで歴史を見れば、つい最近だ。
地球で最後の氷期(氷河期)が終わったのが1万年ほど前。私たちの祖先はそれから、いまの文明につながる道を歩み始める。
10万年後には、私たち人類が滅亡してしまっている可能性さえある。そんな原発の「奇異さ」が不安の根底にあることは、間違いない。(解説/朝日新聞編集委員・上田俊英)
【キーワード:高レベル放射性廃棄物】
原発の使用済み核燃料や、それを化学処理した後に残る廃液。放射能が強烈で、天然のウラン鉱石なみに弱まるのに10万年程度かかる。原発をもつ国々はガラスで固めたり金属容器に入れたりして地下深くに埋める方針だが、処分場所を決めて計画を具体的に進めている国は、フィンランドとスウェーデンだけ。
※月刊ジュニアエラ 2016年11月号より