小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」10月号は「筋肉の謎に迫る」を特集。運動生理学とトレーニング科学が専門の石井直方・東京大学名誉教授の監修のもと、遺伝子や筋トレをめぐる「筋肉のうんちく」をお伝えする。科学的な研究によって次々に明らかにされてきた筋肉のヒミツとは?

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(1)チーターに多くヒトに少ない筋肉とは

 骨格筋をつくる筋繊維は、「速筋」と「遅筋」とに分けられる。

 速筋は、色が白いので「白筋」とも呼ばれる。酸素を使わずに素早く縮み、持久力がない代わりに一度に大きな力が出せる。

 遅筋は、色が赤いので「赤筋」とも呼ばれる。ゆっくり縮み、大きな力は出せない代わりに決まった運動を長時間、続けられる。

 速筋は、ジャンプなど瞬発的な動きに使う「腓腹筋」などに多く含まれ、遅筋は、直立するとき体を支える「ヒラメ筋」などに多く含まれる。

 世界レベルの短距離選手は速筋の割合が、世界レベルのマラソン選手は遅筋の割合が高いことがわかっている。平均的なヒトの速筋と遅筋の割合は、筋繊維の数で比べると半々。一方、時速100キロメートル以上の猛スピードで走ることができるチーターは70%が速筋。ヒトはゆっくり持続的な動きに適し、チーターは短時間で獲物を捕まえるのに適した体のつくりになっていることが、骨格筋の構成からもわかる。

(2)スポーツの能力は遺伝子と関係がある!?

 短距離走など瞬発力が必要なパワー系の競技で活躍するトップ選手の多くが「ACTN3」という遺伝子で特有の型を持っているという研究が2003年に発表され、それ以降、注目を集めている。

「スポーツ遺伝子」とも呼ばれるACTN3は、速筋繊維だけにみられるたんぱく質「αアクチニン3」をつくる設計図で、ヒトはαアクチニン3をつくれる「R型」と、まったくつくれない「X型」に分かれる。西アフリカの黒人のDNAを調べたところ、R型を持つ人が大半だった。またパワー系のトップ選手のほぼ全員がR型だった。日本人をはじめアジア人は、父方も母方もX型である「XX型」が多く、人口のおよそ30%、白人は15%程度がXX型だった。

 だからといってX型の人がパワー系などの競技に向いていないとはいえない。未知の遺伝子はまだたくさんあるし、適性は遺伝子だけで決まるものではないからだ。

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AERA編集部
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