NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役である実業家・渋沢栄一が信奉していたことで、いまふたたび「論語」が注目されている。論語は、2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、企業経営だけでなく、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。現代の親の悩みに対する処方箋として、「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、孔子の格言を選んで答える本連載。今回は、「4歳児に滑り台を逆走させるママ友が許せない」という母親へアドバイスを送る。

*  *  *
【相談者:4歳の息子を持つ30代の母親】
 幼稚園年中の息子を持つ30代の母親です。公園でのマナーを守れないママ友にいら立ちます。彼女とは、子ども同士が同じクラスで同じグループ、降園後も一緒に遊ぶ仲です。そのママ友は、自分の子どもに滑り台を逆走させ、「いかにはやく駆け上がれるか」タイムを計って楽しそうにしています。「ほかに使っている子がいない時は構わない」というのが彼女の言い分なのですが、私はその行為を内心許せません。

 私はこれまで、息子に「滑り台は滑るもの。逆走すると靴の底で滑る面を汚してしまうし、滑ってくる子とぶつかると危ないよ」と厳しく教え聞かせ、逆走したがっても我慢させてきました。たとえ誰もいない時でも守るべきルールだと思うのです。他人の教育方針に口を挟むべきではないと思いますが、彼女に対して黒い気持ちを抱えています。「お母さん、〇〇くん(ママ友の息子)は滑り台を上っているよ。ぼくもやりたいな」と言う息子。母親としてどうふるまえばいいでしょうか。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・「已(や)んぬるかな。吾(わ)れ未だ能(よ)く其の過ちを見て、而(しか)も内に自ら訟(せ)むる者を見ざるなり」(公冶長第五)

・「子、大廟(たいびょう)に入(い)りて、事ごとに問う。或るひと曰(い)わく、孰(たれ)か、鄒人(すうひと)の子(こ)を、礼を知ると謂(い)うや。大廟に入りて、事ごとに問う。子之(こ)れを聞きて曰わく、是(こ)れ礼なり」(八イツ第三)

※写真はイメージです(写真/GettyImages)
※写真はイメージです(写真/GettyImages)
次のページへ
著者 開く閉じる
山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

1 2 3 4