なかでも大きな経験となったのが、高校1年の2月に参加した「模擬G20サミット」だ。国内で英語のディベート大会を主催する団体に、アメリカの機関から参加の招待が来ていた。応募したところ、日本代表として選ばれた。会場となった中国・北京に各国から高校生が集まり、政策を議論する。これが松野さんにとって2つ目の転機となった。
「その時点では政治のことはよくわかっていませんでした。しかしディベートで備えた批判的な思考力などを生かし、各国の事情を聞いて政策をまとめることは楽しく、向いていると感じました。自分の英語力はこうしたことに生かしたいと思った出来事でした」
高校2年の5月には、G20サミットの公式付属会議・Youth 20サミットに日本代表として参加。国際貿易、将来の雇用、環境問題などについて議論し、G20本会議や各国政府などに政策提言した。これが結果的には、大学に最もアピールできる実績となった。
試験の対策も並行して行った。TOEFLはオンラインで提供される練習問題をひたすら反復。2回目の受験でアメリカのトップ大学に出願できるレベルと言われる100点以上を獲得した。共通テストのSATはアメリカの高校生が受ける試験のため、「日本の学校の授業だけで対策するのは難しい。問題文の英語の難しさもTOEFLの比じゃない」(松野さん)。ネット書店で対策本を複数冊購入し、解き続けた。選択科目の数学、物理、化学は、用語を英語で覚えることも必要だった。エッセーはBBCの英語ニュースを毎日読み、週1回、英文を書いては、高校のALTの教員などに添削してもらっていた。
面接も日本とは異なる。オンラインの画面越しの面接担当者は、ハーバード大の卒業生だ。相手も大学進学者が少ないアメリカの高校出身で、「茨城県から出願するなんて珍しい、どのようにしてきたのか?」と聞かれるなど話も弾んだという。政治に興味があると話すと「日本の政治はどうなの?」「米中の関係悪化についてどう思う?」などのトピックも出たが、終始形式ばらない雰囲気で、1時間程度の「会話」が続いた。
ハーバード大の合格通知が来たのは、同級生がすでに大学生になっている4月7日のことだった。
「総合型選抜(旧AO入試)で慶應義塾大には合格していたのですが、最後まで落ち着かない気持ちでした。ハーバード大の合格率は例年3、4%とも言われるレベル。喜びが大きいですが、私は東京の学生と比べると海外経験も少ないですし、合格は想像できませんでした。正直、いまも信じられません」
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