最初に看護師さんからレジュメを配られ、レクチャーを受けるのですが、「不妊治療は夫婦揃って行うことが大切」と強調されました。検査の結果、妻が採卵をしたり、内服薬を処方してもらったりと負担が大きくなったのですが、妻が「なんのために薬を飲まなければいけないのかわからない」という状態にはしたくなかった。疑問点があれば僕からも主治医に質問をするようにしていました。
最初は、帽子を目深に被り、挙動不審になりながら入ったレディースクリニックですが、不思議と慣れていくものです。妻が治療を受けている間は、外が見える窓際のお気に入りの席に座り、色々な方の体験談を読んだり、ときには「今日はいくらかかるのだろうか」など現実的なことを考えたりして過ごしました。
「子どもを授かりたいと思っても簡単にはいかない」
――一年数ヵ月の間で、心が折れそうになったり、ご夫婦で感情をぶつけ合ったりするようなことはなかったですか?
二度目の流産がわかったときは、お互いに「なんでだろうね」「難しいね、やっぱり」という気持ちになり、実際にそんな言葉を口にしていたと思います。僕よりも、妻の方が精神的にダメージを受けていたので、なんとなく「二人で気分転換をしたいな」という気持ちになりました。
「お腹が空いた」と妻が言ったので、通っていたクリニックが札幌にあったこともあり、「じゃあ、お昼はお寿司を食べに行こう」と。お気に入りの店で、思う存分食べました。その後、「まだ食べられるよね」とどちらともなく言い出し、冬だったこともあり、「味噌ラーメンはどう?」と。食べている時間はその美味しさに夢中になり、少しだけ気分が和らいだことを覚えています。心を完全に癒やすことはできないかもしれないけれど、現実を自分たちのなかで受け止め、消化する時間が必要だったのだと思います。
――不妊治療を取り巻く環境について、「もっとこうなればいいのに」と感じることはありますか。
いま不妊の検査や治療を受けたことがあるカップルの数は4.4組に1組いると言われています。男性も女性も日々忙しなく、知らず知らずのうちにストレスを抱えながら生きているなかで、「子どもを授かりたいと思っても簡単にはいかない」という厳しい現実もよくわかりました。悩んでいる人たちはたくさんいると思います。
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