夫婦で役割分担をしておいたほうがいい
――それは実際に多くのご家庭のお父さん、お母さんに接していて感じてこられたことですか。
矢野 そうですね。もちろんご家庭によって考えやスタンスはさまざまですが、お父さんのなかには、「チャレンジすることこそが大切で、失敗しても本人のためになる」とおっしゃる方が多いのに対し、お母さんは「全落ちなんてあり得ない」「子どもを傷つけるようなことはしてはいけない」と考えている方が多いように思います。僕個人としては、中学受験の場合は、後者の視点で考えたほうがいい、と思っています。
ただ、役割分担はしっかりしておいたほうがいい。父親と母親が同じような態度で子どもに接するのはやっぱり避けたほうがいい。前提として、中学受験が順風満帆にいくケースは稀で、途中で勉強が嫌になったり、塾をやめたくなったりすることもある。そんなとき、片方が「頑張りなさい」と強く言っていたとしたら、もう片方は「そんなに思い詰めることはないよ」と言ってあげることが救いになると思うんですよね。両親のうちひとりが子にとってのアジール(避難所)の役割を果たすとよいでしょう。
茂山 両者が「同じ側に立たない」ということが大事で、単純な言い方をすれば、父親なり母親なりが感情的になっているときに、もう片方もそこに乗っかり一緒になって叱ってしまうと、子どもは逃げ場がなくなってしまう。それは、中学受験や勉強に限らず、子育て全般に言えることですけれどね。
塾の帰り道で話す何気ない会話が、親子の貴重な時間に
――共働きの家庭も増えてきています。
矢野 そうですね。中学受験の仕事に30年従事している中で感じるのは、近年は「共働き」のご家庭が一気に増えてきたということです。ご両親ともに忙しくされているので、平日はわが子の勉強を見ることができず、また精神的にずっと寄り添っていることも難しい。ですから、わたしの塾、スタジオキャンパスでは常時自習室を開放しているのですが、「家庭」と「受験勉強」をなるべく切り離せるようにしたいという思いがあるのです。
小学校から戻ったら、すぐに家から塾に向かって勉強を始める。ご両親のどちらかが夜に塾に迎えにきて、わが子と一緒に帰る際、そこで子どもと色々な話をする。「塾はどうだった?」「困っていることはない?」など、たとえ短い時間であってもそうした会話をすることで、子どもはうれしい気持ちになったり、悩みを伝えやすくなったり、ということがあると思うんですよね。子どもにとってはとても嬉しい時間だと思います。
次のページへ親と話したい子は多い