プラスチックケース(アイスクリームのカップ)と金属製の小さなかご(茶こし)などを使って実験装置を作る。かごの中には、次の1)~3)のアリモドキゾウムシを各30匹入れ、24時間そのままにしておいた。
1)オス30匹
2)交尾をする準備ができた(性成熟した)メス30匹
3)交尾をする準備ができていない(未成熟な)メス30匹
こうすると、1)のときにはプラスチックケースの中にオスの匂いが、2)のときには性成熟したメスの匂い(性フェロモン)が、3)のときには未成熟なメスの匂いが充満する。性フェロモンとは、昆虫などのメスがオスを交尾に誘うために出す化学物質だ。そこにピンセットでつまんだオスを落とすと、危険を察知し、身を守るためにすぐに擬死する。その状態のオスが目覚めるまでの時間を、それぞれの条件で計った。
すると、ケースの中に性成熟したメスの匂いが充満している2)のときだけ、オスが早く目覚めることがわかり、約50%のオスが200秒ぐらいで目覚めた。ほかのオスや、未成熟なメスの入ったケースにオスを入れた場合は、擬死から早く目覚めることはなかった。このことから、オスはメスの出す性フェロモンに反応して、擬死から目覚める時間が早くなっていると考えられた。
この考えを確かめるため、次に、かごの中に昆虫を入れるのではなく、ケースに人工的に合成したメスの性フェロモンを染み込ませたゴムリング等を置いた。そして、同じようにオスを落として擬死させ、どのくらいで目覚めるか、時間を計った。すると前の実験のときと同様、オスはほぼすべて、明らかに早く擬死から目覚めた。
捕食者から逃れることより子どもを残すことを優先?
これらのことから、メスの性フェロモンが、オスの擬死から目覚める時間を短くしていることがわかった。この結果について、日室さんはこう述べている。
「捕食者から逃げて生き延びるか、それとも危険を冒してでも交尾相手を探し、子どもを残すか。動物は、この二つをてんびんにかけながら、ギリギリの選択をして生きています。性フェロモンの刺激で目覚める時間を早めるアリモドキゾウムシのオスは、捕食者から逃れるよりも、繁殖(子どもを残すこと)を優先することを示しています」
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