うんちく5 「ベルサイユ宮殿」を往復するマラソンコースに歴史あり

 パリ五輪のマラソン競技は閉会式前日の8月10日(男子)と当日11日(女子)に行われます。パリ市内から郊外のベルサイユ宮殿を往復する42.195kmのコースは最大高低差156mと起伏が激しく、五輪史上、最も厳しいマラソンコースといわれています。

 実はこのコースもフランス革命と深い関係があります。フランス革命が起きた1789年10月、食糧難に苦しむパリ市民が国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットが住むベルサイユ宮殿に向けてデモ行進し、国王夫妻をパリに連れ戻しました。庶民の女性たちが中心となり、必死の思いで片道約5時間の道のりを歩きました。パリ五輪のマラソンコースは、主にこの「ベルサイユ行進」のルートをたどります。

 ちなみにベルサイユ宮殿で民衆と会ったマリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったという有名な話は、アントワネットの発言ではなく、書物の中に書かれた別人のお話です。また、「お菓子」ではなく「ブリオッシュ(パンの一種)」と言ったのが、フランス語から英語に訳される際、「ケーキ」と翻訳され、実際と異なるニュアンスになってしまったとのことです。王妃にとって不名誉な伝聞なので、ここで訂正しておきます。

 その後、国王夫妻はベルサイユ宮殿に戻ることなくギロチンにかけられました。処刑場はパリ五輪でブレイキンなどが行われるコンコルド広場です。

 パリ市内のマラソンコースは、ベルサイユ行進の出発点だったパリ市庁舎をスタート地点に、ルーブル美術館やオペラ座、エッフェル塔などをまわり、ベルサイユ宮殿を経て、皇帝ナポレオン1世の墓があるアンバリッド(廃兵院)にあるゴールを目指します。レース展開だけでなく、背景に映る名所を眺めるのも楽しそうです。

 実際にパリへ観戦に行く人には、ルーブル美術館の見学もおすすめします。ここで紹介したドラクロワの「民衆を導く自由の女神」やダヴィッドの「ナポレオンの戴冠式」のほか、五輪メダルの裏面デザインに採用された彫刻「勝利の女神ニケ」も鑑賞できます。

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