我が子の弁当箱を開けてあげると、隣に座っていたセリーヌが感嘆の声を上げました。

「これ、あなたが作ったの⁈ 凄すぎ!」

 その声に釣られて、お母さん達が集まってきます。

「本当にこれ、自分で作ったの?」

「器用ねー。とても私には真似出来ないわ」

 ママ友達が注目しているのは、タコさんウインナーとうさぎりんごでした。ちっとも凄くないことを説明するため、デコ弁やキャラ弁の写真を見せるとみんなの態度が一変しました。

「お弁当っていうより、アートみたいね。ちょっとやりすぎ」

「これもお母さんが作ってるの? そんな時間あるの?」

「食べるだけなのに、なんでここまで気張るの?」

 感嘆を通り越して引いています。パリジェンヌの「なんで?」「どうして?」「誰のために?」が始まりました。そうこうしているうちに先生達も顔を出し、しきりにタコさんウインナーを眺めています。大の大人が次々と覗き込むので、注目を集めることが嫌いな娘は小さくなってしまいました。本末転倒なのですが、「悪いことをしたな」と、こちらまでお弁当を隠したいような気分です。

食パン1斤と6枚入りハムで即席サンドイッチ

 騒ぎが一段落した頃、セリーヌが取り出したお弁当に今度はこちらが驚いてしまいました。トートバッグから出てきたのは、スーパーでよく売っている食パン1斤。そして6枚入りのハムです。セリーヌは当たり前のようにハムをパックから取り出したかと思ったら食パン2枚の間にペッと挟み、向かいに座っている娘に与えました。そして自分の分も同じように用意しました。バターもついていない、そして食パンの耳がついたままの即席サンドイッチです。

 思わず釘付けになっていると、その視線に気が付いたセリーヌがこちらに怪訝(けげん)な顔を向けました。

「あ、いや、そんなにたくさんパン食べるのかな、って、びっくりして……」

 慌ててそう取り繕うと、セリーヌは笑いながら、

「こんなに食べないわよ! サンドイッチを準備するのが面倒だっただけよ」

と悪びれもせずに言います。

「多めに越したことはないでしょ。娘ちゃんもお一つ、いかが?」

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