ある日「春の小川」の音楽が流れてくると、長男が「この曲はおじいちゃんとの思い出の曲なんだ」と言いました。おじいちゃんとは私の父のことで、昨年の夏に亡くなりました。遠方に住んでいたけれど、いつもテレビ電話をしたり夏休みにはお泊りをしてたくさん遊んでくれたりと、孫をとてもかわいがってくれていました。
「この曲はおじいちゃんが携帯の目覚ましにしていたの。でもこれが鳴る時間にはいつもおじいちゃんとぼくはもう起きてたんだよ。だから一緒に歌ってたんだ」と。朝寝坊の私は、二人だけのそんな思い出があったことをちっとも知りませんでした。
その話を聞いて、ふと思い出したのがこの『わすれられないおくりもの』です。
私は父を亡くしてから、「どう過ごしたら誰かを後悔なく見送ることができるんだろう。そして自分も後悔なく生きられるんだろう」……そんなことを考えていました。
絵本に出てくるアナグマは、優しくて物知りで、みんなからとても愛されています。しかしある日、寿命で亡くなってしまいます。みんなは悲しみながらも、アナグマとの思い出を語り合いました。すると『別れたあとでも、たからものとなるような、ちえやくふうを残してくれた』ことに気づくのです。そして『さいごの雪が消えたころ、アナグマが残してくれたもののゆたかさで、みんなの悲しみも、きえていました』とあります。
アナグマが父と重なり、涙が止まりませんでした。
子どもたちは時折「おじいちゃんは算数の先生だから、算数のテストのときは頼んどく!」とか「おじいちゃんはおもしろいことばっかり言うから、変顔がうまくなりますようにって頼んだ!」と言って、おじいちゃんの存在をうまく使っているようです。残してくれたものの豊かさを感じるのは、子どもたちのほうが上手なのかもしれません。
大切な人との時間を思い出すときに、おすすめしたい1冊です。