「失敗ができない」という子がとても増えてきたように感じる。「間違えたくない」「直したくない」……。いろんな程度や表現はあれども、「模範解答でありたい」。いや、そうでなければならない、と思っている子がやけに多いと思えるのだ。
子どものうちは、できないことやわからないことがたくさんあって、失敗やけがをしながらも、そうやって「痛み」を覚えて学び、成長していくもんだよ……なんて、思っていたのはどうやら今の時代には通用しないらしい。
改めまして、こんにちは。私は3歳から中学生のお子さんまで約100名、学習塾で指導をしている元小学校教諭のちかもっちこと植木です。
教室では常々、「間違えたっていいのよ、 失敗してもいいのよ」とどうぞ存分に間違えてください!と大手を広げているつもりだが、「バツ」がつけられる前に「これで合ってる?」と聞きにくる子が、いつも一定数は存在している。
子どもたちには「失敗を乗り越える力、恐れない力」を身につけてほしい、と願う毎日だ。
そんな今回は、失敗というピンチを機転で乗り越え(…られた、のか?)、最終的には斜め上をいく着地点で失敗を堂々と肯定化する、強心臓のカエルが主役のこんな絵本を紹介したい。
『とこやにいったライオン』
「失敗から生まれる処世術」といえばいいのだろうか。床屋なのに切り過ぎる、切り過ぎたらもっと切ってしまえ!……とぶっとんだ失敗と対処法だけれども、それをやってのけるカエルと、またそれをあっさり、いやむしろポジティブに受け入れるライオンも、愛さずにはいられない。
何度読んでも楽しくなる。私にとって「声に出して読みたい絵本」であり、読めば必ず気持ちが緩まる一冊だ。
失敗は許されず、トラブルは未然に防がれる
失敗は拡散され、吊し上げられる時代。
実際に、「社会から許されない大人」を、メディアを通じて日々、まざまざと見せられている。
それにSNSのある今は、それがいい部分だけを切り取った世界であるにも関わらず、そのままを鵜呑みにして、「誰も失敗していない。完璧なんだ」と勝手に自分を追い詰めることにもつながっているのかもしれない。
学校の役員を長年積極的に務めているが、そうすると学校の様子が実によく見えてくる。先生たちの大変さはもちろん、自分がかつて教員であったころ以上に、働き方改革のもとさまざまな制限が増えていることを、同期の仲間と話す中でも感じている。わが子の通う小学校でも「トラブルの元になるので禁止」とされる子どもの遊びが、年々増えている。
心理的安全性が担保された、絵本の世界
では、今の子どもたちはどこで、失敗することやそこから立ち直ること、自分の中で昇華させることを学ぶのだろうか。
「心理的安全性の担保」という言葉がある。「安心して失敗できることが、許されている」という環境を作ってやること、これが子どもが伸び伸びと育っていくためには欠かせない。
絵本や物語の世界は、いつだって心理的安全性が担保されていて、子どもに優しい。
失敗する主人公に自分を重ね、それを笑い飛ばしたり、乗り越えていく姿を絵本を通して体験してほしい。
教育や子育てなんて、失敗することや間違えることを上手に経験させること、に尽きるのかもしれない、とさえ思う。
だいたいのことはどうにかなる、なんだかそう思わせてくれる懐の深い絵本に、親子共々、ゆるっと身を委ねてみるのも、いいかもしれない。
(文/植木恭世)