こういう遺伝子が900種類ほど見つかったが、その中には活性酸素を作る遺伝子と、活性酸素を消す遺伝子が多く含まれていた。活性酸素は、私たちが吸う酸素が変化してできるもので、生物の体に必要な働きをする一方、多くなりすぎると細胞を傷つけて病気や老化を引き起こす原因となる。
くわしく調べてみると、孤立アリではグループアリに比べて「活性酸素を作る遺伝子」が多く発現しているだけでなく、「活性酸素を消す遺伝子」の発現が少なくなっていることもわかった。これでは活性酸素が体内に増えていくから、アリの健康によいはずがない。
さらに活性酸素が体のどこにたまっているかを調べると、私たちの肝臓にあたる脂肪体とエノサイトという部分に多かった。
※遺伝子は、体に必要なたんぱく質を作る物質。遺伝子が働いて、細胞の中でたんぱく質の材料が作られることを、遺伝子が発現するという
アリの体の中で増えていたのと同じ遺伝子は、人の体の中にもある
次に古藤さんらは、孤立アリに、活性酸素の効果を弱める働きを持つ「メラトニン」という薬を水に混ぜて飲ませてみた。すると、一定量のメラトニンを与えたとき、孤立アリは寿命が延びてより長生きすることがわかった。壁際にいる時間が長いなどのおかしな行動も少なくなった。
ここまでの研究結果から、次のことが明らかになった。それは、孤立アリの体内にたくさんできる活性酸素が、アリの寿命を短くする原因の一つであるということだ。この結果について古藤さんは、「今回の研究のカギとなる活性酸素を作ったり消したりする遺伝子は、アリ以外の昆虫やネズミ、人などの哺乳類も持っている遺伝子です。活性酸素を作る・消すというしくみは、どんな生き物にも見られるものなので、孤立すると活性酸素が増えて寿命が短くなることは、私たち人間にも当てはまる可能性があると思います」と述べている。
次のページへ私たち人間にも当てはまるのか?