亀山さんの塾には毎年、大手塾についていけなくなった子たちが転塾してくるという。

「大手塾が向いている子もいますが、合わない子もいます。そういう子は、まず塾で挫折して中学受験から撤退してしまうのです。でも、それはもったいない。中学受験を始めたなら、絶対に離脱せず、最後に一つは合格証を手にしてほしい。そうでなければ挫折感と心の傷だけが残ります。最終的に公立中に進むとしても、何かしら成功体験がなければ高校受験で頑張れないのです」

 亀山さんの塾に転塾した子の中には、それまでとは打って変わって「塾が楽しい」と言う子が少なくない。「ゆる中学受験」によって、勉強を楽しむ余裕が生まれるからだと亀山さんは考える。

「勉強って、知らないことを知ることですから、本来つまらないはずがないんです。特に中学受験はレベルの高い問題が多い。なかには『ずっと受験勉強していたい』という子もいます。それが私たちの喜びです」

 最近は「1年間で受験できる」とアピールする塾もあるが、「それは危険」だと亀山さんは言う。

「1年間の受験勉強で合格を目指す場合、ハードな受験勉強が不可欠になります。圧倒的に時間が足りないので、全然『ゆる』くありません。それで合格できる子はごく一部だと思います」

■「なぜ中学受験をさせたいのか」親のブレない姿勢が重要

 中学受験のスタート時、亀山さんがいつも親に伝えていることがある。それは「なぜ中学受験をすることに決めたのか」を紙に書いてほしいということだ。

「当初は『よりよい学びの環境を与えたい』『合格を手にする喜びを体験させたい』と思っていたのに、気がつくと偏差値競争に巻き込まれて、『こんな学校じゃダメ』と言ったりする。でも親がブレてしまうと、子どもはガタガタになります。親は常に、何のために受験するのかという原点に立ち戻ってほしいのです。結局のところ、中学受験は『親の受験』であるのは事実だと思います」

 キーワードはネガティブ禁止、と亀山さんは言い続けている。

「小学生にとって親の影響は甚大です。親バカでいい。うちの子は絶対受かる、連戦連敗でも必ず受かると信じてもらった子は、必ず1勝をもぎ取ります。合格率何%という確率論を覆す力が、親にはあるのです」

亀山卓郎/大手塾や個人塾などで経験を積み、2009年、東京都台東区の「上野桜木教室」を「進学個別桜学舎」に発展。大手進学塾とは一線を画す受験指導を行う。YouTube「下町塾長会議」も話題に。著書に『ゆる中学受験―ハッピーな合格を親子で目指す』(現代書林)ほか。

(神 素子)

※AERAムック『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2023』より

偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び 2023 (AERAムック)

朝日新聞出版

偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び 2023 (AERAムック)
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