中学受験は小3の2月から……それが“常識”になっています。貴重な小学生時代の半分を捧げなくては中学受験で成功できないのでしょうか。AERAムック『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2022』では、親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」を提唱する亀山卓郎さんの考えを聞きました。
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何が何でもわが子をトップ校に! すべての親がそう思っているわけではない。そしてすべての子が、目標に向かって3年間突っ走れるわけでもない。それでも中学受験を始めれば、山のような塾の宿題やクラス分けの試験に追われ続ける。
「家族旅行も遊びも習い事も全部あきらめて、家族一丸となって頑張ってきたあげく、小学5年から6年の夏ごろに息切れを起こす子は少数ではありません」
そう話すのは、自称「下町の小さな街の塾」を運営する亀山卓郎さんだ。長年の経験から「小学生にとって3年間の受験勉強は長すぎる」と実感している。
「トップ校をねらうなら3年間の準備が必要かもしれませんが、『公立校より整った教育環境で、ゆったり学んでほしい』という目的のご家庭も多いのです。ところが、大手塾の説明を聞いているうちに『やるからにはトップ校!』と、目的がブレてしまう親御さんがけっこういらっしゃるんです」
だが、中学受験で第1志望に入学できる子はひと握り。
「最終的に地元の中堅校に入る子が少なくないのですが、『すべり止め』にしていたその学校も、実際にはとてもいい学校です。入学したあとに『うちの子に合っていた』と満足する人は多いです」
■「偏差値60以上お断り」の受験指導
であるなら、最初からそこを第1志望にすればいい。亀山さんはそう考えて「偏差値60以上お断り」の受験指導をスタートした。それが「ゆる中学受験」だ。
「最上位校をねらわず、首都圏模試のデータで偏差値60以下の学校を第1志望にします。そのぶん受験期間は小学5年、小学6年の2年間に短縮でき、習い事や家族旅行などもあきらめずにすむ。そして私が最も重視しているのは『志望校ラブ』で受験校を決めることです。偏差値でも合格率でもなく、『好きだから入りたい』と思える学校を目指してほしいのです」
それができるのは、地域密着型の塾だからだと亀山さんは言う。
「地元の私立中の先生方とのお付き合いも長いので、『この子にはこの学校が合う』というコンシェルジュ的なアドバイスができます。大手塾にはない強みです」
亀山さんは、偏差値60で志望校を切る理由をこう説明する。
「偏差値60を超えると、入試問題の質が変わります。複雑で解きにくい問題が多くなるので、大手塾のノウハウや『○○中学向けの特訓』が必要になるのです。一方、偏差値60未満の学校は基礎的な問題が中心。複雑な問題に対応しなくてすむぶん、受験勉強にかける時間を短縮できるのです」
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