西條:自分の内なる感性より外に基準を求めてしまうんですよね。子育てこそ、本質でとらえたほうが、いろいろな悩みやとらわれから解放されるんじゃないでしょうか。私は大学院で発達心理学を研究していたんですが、博士論文のテーマは、「おかあさんと赤ちゃんの抱っこについて」だったんです。

高濱:おお、それは面白い。

西條 最初はね、世界で多いのは右抱きか左抱きかとか、横抱きか縦抱きかとか、それどうでもいいじゃん的なこともけっこう調べたりするんですよ、これが。

高濱:論文の構成要素としては必要だと。

西條:学会の論文では左抱きが多いという説が主流でしたが、私の調べたタイでは右抱きが多かった。マダガスカルも。でも抱っこの本質はそんなことではなくて、親と赤ちゃんの相互作用、特におかあさんが様子に耳を傾けている結果として横抱きから縦抱きに変わったりと、形が変化していくんですね。赤ちゃんの首が据わってくる前に、赤ちゃんが横抱きをなんとなく嫌がるようになるんです。それに親が気づいて縦抱きをするようになる……といたってシンプル。

高濱:生後何カ月ごろに何をしますっていう情報を参考にするんじゃなくて、自分の赤ちゃんを抱っこして関心を持って見ていてあげればいいんですね。

西條:はい、その通りです。20組以上の親子の成長の様子をずっと観察していて、縦断研究というのですが、これでわかったことは、発達や成長のプロセスはおそろしく多様だということです。うつぶせが嫌いな子はいつまでたってもハイハイしないし、斜めにゴロゴロゴロゴロと転がって動く子もいれば、床を上手に滑りながら移動する子もいる。みんな違いました。育児書によくあるような平均的な成長をする子なんて逆にいないんですよ。多様性を前提にしないと発達理論は構築できないんです、本来は。

高濱:平均値の落とし穴ですね。ものすごくよくわかります。目の前にいる自分の子が現実で、平均値は幻想なのに、むしろそっちのほうが気になってしまう。

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