ただ、強い権限があっても、それを適切に使う態勢づくりができていない。現場で働く専門職員の「児童福祉司」も足りていない。虐待はこの10年で3倍以上になったが、児童福祉司の数は同じ期間に約1.4倍にとどまっている。家族を引き離す強い力はやみくもには使えないことから、見極めには一定の経験も必要になる。10年程度で一人前とされるが、3年未満の人が半分近くを占める。

 児童虐待を防げないのは、児童相談所だけの問題ではない。社会の側にも目を向ける必要がある。

「しつけ」と言って、暴力を振るうことを認める社会の考え方も虐待を生んでいる。国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの意識調査では、成人の約6割が「しつけ」としての体罰を認めている。こうした実情から国も児童虐待防止法の改正を目指すなどして、体罰を禁止しようとしている。

 虐待する人の中には孤立を深めた人もいる。虐待で子どもが亡くなった事件を分析したところ、「泣きやまないことにいらだったため」を理由に挙げる人は少なくない。16年度分の分析では、生活保護を受けたり、税金を低く抑えてもらったりと経済的に苦しい人は2割以上いた。子育てに悩んだり、経済的に苦しくて行き詰まり、孤立してしまったりした親が虐待に手を染めたケースもある。

 児童相談所の体制を整えたり、「体罰はダメ」という考えを広めたり、親の孤立を防ぐサポート態勢を充実させたりと、まだまだやれることはある。

 忘れないでほしいことがある。子どもの人権に関する国際的な決まりごとを定めた「子どもの権利条約」では、子どもは暴力から守られ大きくなる権利が保障されている。日本も従うルールだ。だが、ときに、大人も間違える。親や親戚から、「死んでしまえ」と大声で怒鳴られたり、なぐられたり……。そんな話を友達から打ち明けられることがあるかもしれない。

 大事なことはまず、「悪いのはあなたではない」と伝えることだ。その上で、話を聞いてくれる大人を探そう。(朝日新聞記者・高橋健次郎)

※月刊ジュニアエラ 2019年5月号より

ジュニアエラ 2019年 05 月号 [雑誌]

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AERA編集部
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