米国では新たな仕事や人生に向けて羽ばたこうと、自らの意思で仕事を辞める動きが広がっている(photo gettyimages)
米国では新たな仕事や人生に向けて羽ばたこうと、自らの意思で仕事を辞める動きが広がっている(photo gettyimages)
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 米国で人手不足が深刻化している。解雇ではなく自らの意思で仕事を辞める人たちが増えているためで、昨年は4740万人もの人が離職した。そんな「大退職時代」は、ポストコロナの潮流になるのか──。AERA2022年3月21日号の記事を紹介する。

【グラフ】コロナでどう変わった?米国で離職する人数の推移はこちら

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「コック、マネジャー、サーバー求人中」

「マネジャー、即日勤務可能」

 米ニューヨークの街を歩くと、レストランや小売店のいたるところに貼り紙が目立つ。「え、マネジャーまで求人?」と、かつてはない現象に驚く。

 足元の人手不足は深刻になるばかり。なんと求人の半分に相当する数の従業員が辞めているという。「味が落ちた」「人材がそろっていない」というサービス業への不満は、市民の間で高まっている。

年5千万人弱が辞める

 そんな状況を「大退職時代(The Great Resignation)」と名付けたのは、テキサスA&M大学で組織行動論や心理学を研究するアンソニー・クロッツ准教授だ。1920年代末~30年代前半に米国を皮切りに起きた「世界恐慌(The Great Depression)」などに引っ掛けた。

 退職者が目立ってきたのは昨年夏以降。新型コロナウイルスの感染拡大が一服し、変異株「オミクロン株」が流行する前の時期にあたる。米労働省によると、2021年8月の退職者は427万人、9月は436万人、11月には449万人に達した。昨年の退職者は月平均395万人で過去最高を記録。単純計算すると年延べ4740万人が仕事を辞めたことになる。業種として多いのは、運輸・小売りサービスがトップ。レジャー・フード産業、会計・税務・監査などの法人サービスが続く。

 新型コロナの感染が始まった直後は、ロックダウンによる経済危機で、解雇や一時解雇(レイオフ)の嵐が吹き荒れた。当然、自ら希望して辞める人は少なく、20年4月の離職率(労働者全体に占める月間の退職者数の割合)は1.6%にとどまった。

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