最年少で四冠を達成した藤井聡太。その勢いはとどまることを知らない。年明け1月9日には、史上最年少五冠をかけて渡辺明王将に挑む王将戦七番勝負が始まる。藤井四冠の強さの秘密はなんなのか、小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」1月号で迫った。

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 400年以上の歴史をもつ将棋界は、昔から天才の集まる世界だといわれてきた。その中でも藤井聡太は、史上最高の天才なのかもしれない。

 2021年11月。まだ19歳の藤井は将棋界のビッグタイトル、竜王を獲得した。藤井はこれで将棋界の八つのタイトルのうち、半分の四つを占め、「四冠」になった。

 上位クラスで勝率6割を超えれば一流、7割に近ければ超一流といってもよい世界で、藤井の勝率は8割を大きく超えている。過去にこれほど勝ち続けている棋士はほかにいない。

 スポーツの世界では体力の違いなどもあって、子どもが大人に交じってトップクラスの活躍をすることは難しい。しかし頭脳スポーツの将棋の世界では、子どもが大人に勝つことは珍しくない。その中でも藤井は特別だ。小学6年生のときに、プロ棋士も含めて並み居る大人の強豪たちを退け、詰将棋を解く大会で優勝した。そして14歳、中学2年生のとき、史上最年少でプロ棋士になった。

 プロになれば中学生、高校生のうちからお金を稼げる。藤井はずっと、10代にしては驚くほどの額を稼ぎ続けた。21年に獲得した賞金、対局料はおそらく1億円ぐらいだ。しかし藤井が将棋に打ち込んできた理由は、大金持ちになりたいからでも、偉くなって威張りたいからでもない。何よりも将棋が好きで、ただ強くなりたかった。それだけの理由からだ。

 藤井は5歳のとき、おばあちゃんに習って将棋を始めた。おばあちゃんやおじいちゃんにはすぐ勝てるようになり、面白かったから将棋を続けた。それでも最初から無敵だったわけではない。大会で負けたら大泣きする子として有名で、お母さんはいつも困っていた。

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松本博文
将棋ライター 松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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