香港国際空港の到着ロビーに座り込み、「逃亡犯条例」改正案の撤回を求めるデモ隊の人たち/7月26日 (c)朝日新聞社
香港国際空港の到着ロビーに座り込み、「逃亡犯条例」改正案の撤回を求めるデモ隊の人たち/7月26日 (c)朝日新聞社
深セン湾スポーツセンターに駐留する人民武装警察部隊の車両/8月19日、中国広東省深セン (c)朝日新聞社
深セン湾スポーツセンターに駐留する人民武装警察部隊の車両/8月19日、中国広東省深セン (c)朝日新聞社

 香港のデモは拡大が止まらず、空港が一時閉鎖される事態も起きた。近くに武装部隊を待機させる中国だが、そう簡単には介入できない事情もある。

【写真】深セン湾スポーツセンターに駐留する人民武装警察部隊の車両

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 豪雨に見舞われた8月18日。香港政府への抗議集会が開かれた香港中心部のビクトリア公園に、傘をさした無数の市民のシュプレヒコールが響き渡った。主催者によると約170万人が参加した。20代の女性会社員は「香港政府も共産党も信用できない。香港は独立するべきよ」と吐き捨てるように言った。

 この公園から北西に約40キロしか離れていない広東省深セン(センは土へんに「川」)市の深セン湾スポーツセンターには、最近派遣された中国軍指揮下の武装警察部隊が駐留し、デモ制圧を想定した訓練を続けている。

 民主化を訴える香港市民と、にらみを利かせる武警。「一国二制度」の矛盾を象徴するような光景が広がっている。

 発端は2月、香港政府が刑事事件の容疑者を中国に引き渡せるように「逃亡犯条例」を改正する方針を出したことだった。

 中国の司法制度に不信感を抱く香港市民は多く、6月には過去最大の約200万人(主催者発表)のデモに発展。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は改正案を事実上廃案にすると表明したが、「撤回」と言わない林鄭氏に失望した市民はデモを続け、警官隊との衝突などで700人以上が拘束された。

 デモ隊の要求は改正案の撤回や警察による暴力の責任追及のほか、民主的な選挙制度にも拡大。条例の問題を超え、中国の統治システムそのものへの不信感が表面化している。中国政府は当初静観していたが、一向にデモが収まらない状況に業を煮やし、強硬姿勢を示し始めた。

 中国側が焦るのは10月1日に建国70年の節目を迎えるからだ。中国の発展ぶりを国内外にアピールし、人民の団結を演出する絶好の機会であり、盛大な記念式典や軍事パレードが催される。香港が混乱した状態では党や国家の威信が失われるだけに、中国側が武力介入するかどうかに関心が集まっている。

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