昨年、中国でゲノム編集を行った双子が誕生し話題となった。何が問題なのだろうか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された記事を紹介する。

ゲノム編集を利用した遺伝子改変 (c)朝日新聞社
ゲノム編集を利用した遺伝子改変 (c)朝日新聞社

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 中国・南方科技大学の賀建奎副教授が、昨年、ヒトの受精卵のゲノム編集を行って双子の赤ちゃんを誕生させていたことがわかった。赤ちゃんの両親は、親が抱える病気を子に伝えないために賀副教授の研究に参加したとしているが、中国も含め世界各国から賀副教授に非難の声が上がっている。

 ゲノム編集は、DNAにある遺伝子の情報を書き換える技術で、ここ数年の間に急速に発達してきた。これにより、DNA上の遺伝子を切り取ったり、別の生物の遺伝子を付け加えたりすることが簡単にできるようになった。

 じつは、1970年代から「遺伝子組み換え」という技術があり、同じようなことが、害虫に強い作物や体の働きを一部失わせた実験動物をつくりだす際などに行われてきた。しかし、遺伝子組み換えは成功する確率が非常に低く、運任せのようなところがあった。また、この技術が利用できる生物は限られ、哺乳類でうまくいくのはマウスにほぼ限られていた。

 これに対してゲノム編集は、高い確率や精度で遺伝子の切り取りや入れ替え、追加などができ、ヒトも含めたほとんどの動植物に使うことができる。この技術を利用すれば、作物の品種改良だけでなく、これまで治せなかった病気の治療にも役立つ可能性がある。ただし、赤ちゃんに育つヒトの受精卵に使う領域までは、どの国の研究者も、まだ踏み込んでいなかった。その大きな理由の一つは、安全性が確認されていないこと。もう一つは、親が望む能力や容姿、体力などを備えた子(デザイナーベビー)をゲノム編集で誕生させることが可能と考えられるからだ。一部の裕福な親が才能や運動能力抜群な子どもをつくったら、社会の不平等が大きく広がってしまう。賀副教授は、世界の研究者が守っている暗黙のルールを大きくはみ出してしまったのだ。

 今後、このようなことが繰り返されないよう、世界各国が協力して、はっきりとした国際ルールをつくるべきとの意見も広がっている。(解説/サイエンスライター・上浪春海)

【キーワード:ゲノム/DNA/遺伝子】
 ヒトの細胞の一つひとつの中には、「DNA」でできた46本の染色体があり、ねじれた縄ばしごが連なったようなつくりをしている。そのDNAのところどころに書き込まれた情報が「遺伝子」で、体の大きさや目の色など、生物の形や性質を決める設計図のはたらきをする。「ゲノム」とは、遺伝子も含めたDNA上にあるすべての遺伝情報のことをいう。

※月刊ジュニアエラ 2019年4月号より

ジュニアエラ 2019年 04 月号 [雑誌]

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AERA編集部
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