在イスラエル米大使館がエルサレムに移転したことで、中東の和平は絶望的になったとまでいわれている。なぜ、ここまで問題になったのだろうか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された中東ジャーナリストの川上泰徳さんの解説を紹介しよう。

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 アメリカは5月、イスラエルのテルアビブにあった大使館をエルサレムに移した。イスラエルはエルサレムを一方的に「首都」としてきたが、国連も、国際社会も認めていない。エルサレムの東側の東エルサレムにはかつてパレスチナ人が住み、イスラエルが戦争で占領した地域だからである。

 日本を含む世界のほとんどの国々は、イスラエルでの自国の大使館をエルサレムではなく、テルアビブに置いている。しかし、イスラエル寄りの外交政策をとるトランプ米大統領は、昨年12月にエルサレムを首都と認めると発表し、今回の大使館移転につなげた。それに抗議するパレスチナ人は大規模なデモを行い、イスラエル軍が銃撃して60人以上が死んだ。

 なぜ、イスラエルの首都をエルサレムと認めることが、これほど問題になるのだろう?

 エルサレムにはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三つの宗教の聖地がある。イスラエルをつくったユダヤ人はユダヤ教徒で、パレスチナ人にはイスラム教徒とキリスト教徒がいる。イスラエルがエルサレム全体を支配し、アメリカがそれを認めたことには、パレスチナ人だけでなく、中東のアラブ人や世界のイスラム教徒も反発を強めている。

 パレスチナ紛争と呼ばれる、イスラエルとパレスチナおよびアラブ諸国の対立は、1948年の第1次中東戦争から今年で70年になる。パレスチナ人とは「パレスチナ地方のアラブ人」のことであり、アラブ人は現在、北アフリカから中東まで20カ国以上に分かれている。

 中東戦争を経て、ユダヤ人はイスラエルという国を持った。しかし、パレスチナ人にはまだ国はない。平和を実現するためには、イスラエルが占領しているヨルダン川西岸とガザ、東エルサレムから撤退し、そこにパレスチナ人の国を独立させ、イスラエルとパレスチナが二つの国として共存するしかない。

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川上泰徳
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