脳卒中は、日本人の死亡原因の上位にあり、介護が必要となる主な原因のひとつ。親世代はもちろん、働き盛りの世代も注意したい疾患だ。しかも脳卒中は、実は心臓に深い関連があるという。香川県立中央病院は、脳神経外科と循環器内科の「脳心連携」を打ち出した。今年3月に行われたメディアセミナーで紹介された4人の専門家の話をもとに、両診療科の連携について、同病院の事例を交えて紹介する。

■健康寿命の延伸を脅かす「脳卒中」。心配なのは親だけでなく……

 人生100年時代を迎え、健康寿命の延伸が大きな課題となっている。そんな健康寿命を短縮する要因のひとつであり、「要介護者」の原因の第2位、なかでも「要介護5(寝たきり)」の原因の第1位が脳卒中だ(※1)。

 脳卒中には、脳の血管が閉塞する「脳梗塞」、脳内の血管が破れて出血する「脳出血」、脳の表面から出血する「くも膜下出血」がある。働き盛りの世代は、まず親の心配や介護の不安が先立ち、「自分自身にはまだ先の話」と思うかもしれない。しかし脳卒中の発症には生活習慣の積み重ねが影響しているという。

「不適切な食生活・喫煙・多量飲酒・運動不足・睡眠不足・ストレス過剰といったことが、高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病につながり、脳卒中の誘因となります。若い頃からの生活習慣の見直しが必要です」と日本脳卒中協会の峰松一夫理事長は注意を促す。

「要介護」の原因の第2位は脳卒中(オンライン出演の同協会・峰松一夫理事長)
「要介護」の原因の第2位は脳卒中(オンライン出演の同協会・峰松一夫理事長)

■脳梗塞で、意識喪失・麻痺などの症状に

 脳卒中の約4分の3を占めるのが脳梗塞だ(※2)。脳梗塞には、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症(脳梗塞)」がある。突然発症し、意識をなくしたり、麻痺が生じたりする症状で、身体機能や言語機能が失われるといった後遺症の出現、もしくは死に至る可能性もある重篤な疾患だ。

©Johnson & Johnson K.K.
©Johnson & Johnson K.K.

「脳梗塞は、時間が経つほど脳細胞が死滅していくため、早期の治療開始が非常に重要。発症から血管の再開通までの時間が短いほど、症状の回復が良好で後遺症も少ないでしょう」と、香川県立中央病院脳神経外科診療科長の市川智継先生は説明する。

■進歩する脳梗塞治療。早い対応で後遺症のリスクが低下

 脳梗塞の治療法では、主に「血栓溶解療法」や「血栓回収療法」が行われている。血栓溶解療法は、血栓を溶かす作用のあるrt-PAという薬を静脈に投与する方法だ。ただし「発症から4.5時間以内という制限があることと、太い血管の閉塞には効果が低いことが弱点となり、『重症なほど救えない』というジレンマがあるのです」(市川先生)

 そこで有効とされるのが、詰まっている血管にカテーテルを通し、血栓をからめ取る血栓回収療法だ。血栓溶解療法による治療が適さない、または効果がなかった場合に検討する。

■覚えてほしいキーワード「FAST」

 とはいえ重要なのは初期対応。万一、脳梗塞が疑われる症状が突然出現したら、躊躇なく救急車を呼んでほしい。脳卒中の初期症状を知るためのキーワードが、「FAST(ファスト)」だ。顔がゆがむ(Face)、片側の腕に力が入らない(Arm)、うまく話せない(Speech)、時間が大事(Time)、それぞれの頭文字をとった合言葉となっている。大切な人や自身を守るために、ぜひ覚えておこう。

■香川県立中央病院は、なぜ「脳心連携」に挑んだか?

 香川県の基幹病院である香川県立中央病院は、2019年に24時間365日脳卒中診療に従事する医師が勤務し、脳卒中患者を受け入れ可能とする一次脳卒中センター(PSC)となった。22年には、血栓回収療法を必要とする患者を常時受け入れる一次脳卒中センターコア施設に認定されている。

連携のための取り組みとして、定期的な勉強会を実施。直近のテーマは「脳卒中の院内発症の際の連携」(左から香川県立中央病院の髙口浩一院長、市川智継先生、大河啓介先生)
連携のための取り組みとして、定期的な勉強会を実施。直近のテーマは「脳卒中の院内発症の際の連携」(左から香川県立中央病院の髙口浩一院長、市川智継先生、大河啓介先生)

 同病院が打ち出しているのが、脳神経外科と循環器内科が連携する「脳心連携」(※3)だ。院長の髙口浩一先生は、次のように説明する。

「脳血管疾患と心疾患は、危険因子や原因に共通項が多いのが特徴。さらに脳卒中は心疾患を合併している例が多数あるうえ、心疾患が脳卒中の原因となっていることもまれではありません」

 脳卒中は再発しやすい疾患で、例えば脳梗塞は1年で10%、10年で50%の再発率(※4)だという。再発すると新たな後遺症や症状の悪化を招く恐れがあるため、再発予防が重要となる。そこで脳神経外科と循環器内科が密に連携し、脳と心臓の両面からケアする必要があると考え、22年2月に脳心連携チーム医療「ブレインハートチーム」を立ち上げた。

■心原性脳塞栓症を引き起こす“心房細動”とは?

 特に脳心連携チームが注視しているのが、心原性脳塞栓症だ。心臓の左心房で発生した血栓が血流に乗って脳へ運ばれ、脳の太い血管を詰まらせる。心臓にできる血栓は大きいサイズのものが多く、脳へのダメージも大きいことが特徴。この心原性脳塞栓症の原因の多くが、心疾患の心房細動だという。

©Johnson & Johnson K.K.
©Johnson & Johnson K.K.

 心房細動は、異常な電気信号により、心臓の上の部屋である心房が小刻みに震えて痙攣(けいれん)し、血流が停滞して血栓ができてしまう。その血栓が脳へ運ばれ、血管を詰まらせる原因となるのだ。

「多くの人は、動悸・息切れ・めまいを自覚します。しかし、心房細動の40%が無症状(※5)の『隠れ心房細動』といわれています。脳梗塞を発症する前に、『隠れ心房細動』を見つける必要があるのです」と同病院循環器内科部長の大河啓介先生は問題点を指摘する。

■脳心連携チームで、脳梗塞患者を脳神経外科から循環器内科へ

 急性期治療で終わることなく、心疾患の精査・治療による再発予防から慢性期治療まで、「すばやく、もれなく、継ぎ目なく(シームレス)、全人的に」をミッションとしている脳心連携チーム。

 脳梗塞の再発予防は、回復後の維持期(生活期)の医療と思われがちだが、「発症したときから始めることが大切」と髙口先生は強調する。脳神経外科へ救急搬送され、心原性脳塞栓症と診断またはその可能性が否定できない患者について、脳心連携チームは次のような流れを組んでいる。

 急性期治療が一段落すると、入院中に循環器内科の医師も加わり診察する。循環器内科では、心原性脳塞栓症の誘因となる心疾患などを精査し、必要な治療を行う。

 心原性脳塞栓症の多くが、心房細動を原因とすることから、心電計による隠れ心房細動の検出や、心房細動自体の治療、抗凝固薬や抗不整脈薬の投与などを検討。患者の状態が良好ならば、心房細動の原因となっている心臓の筋肉部分を焼灼(しょうしゃく)する根治的治療のカテーテルアブレーション治療まで行うこともあるという。

■循環器内科の介入が6倍に

 今年3月3日に行われた、メディアセミナー「脳神経外科・循環器内科の診療科間連携『脳心連携』の挑戦 ~香川県における先進事例~」(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー主催)では、脳心連携について、次のような実績が報告されている。

 22年2月から12月までに、脳神経外科から循環器内科へ紹介された48人のうち、41人に塞栓源の検索(脳梗塞の原因の特定)や心房細動の治療などが行われた。脳心連携スタート以前の21年に循環器内科による介入があった患者は7人なので、約6倍に飛躍したことになる。

「循環器内科の医師が早期に一緒に診療することで、急性期入院中に心原性脳塞栓症の原因の精査はほぼ完了できるようになりました。カテーテルアブレーション治療や、経皮的左心耳閉鎖術といった高度医療も実施しやすくなりました」(市川先生)

 19年に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(脳卒中・循環器病対策基本法)」が施行され、従来の枠組みでは限界のあったネットワーク構築や、的確な救急搬送の体制づくりが進むこととなったが、急性期入院中から心原性脳塞栓症の原因疾患の精査・治療を、両診療科の専門医が連携して行う医療機関は珍しい。脳卒中と心臓病の集学的アプローチを行う医療機関としても、先駆的事例として全国から熱い視線を注がれることになるだろう。

「この成功事例やノウハウを発信するのは、極めて重要」と峰松理事長は語る。

■脳卒中や心房細動についての相談先や調べ方は?

 一次脳卒中センター(PSC)は、香川県だけでなく日本全国に配置されている。さらに脳卒中の治療・予防・後遺症や、転院・退院後の生活について対面で相談ができる「脳卒中相談窓口」は、一次脳卒中センターコア施設に設けられている。どちらも日本脳卒中学会のHPで都道府県別に検索できるので、住んでいる地域の施設を覚えておくとよいのでは。

 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニーは、幅広い診療領域において医療機器・ソリューションを提供するメドテック企業だ。脳卒中・循環器病対策基本法を受け、香川県立中央病院をはじめとする医療機関と協働して地域の適切な医療受診を目指す活動を行っている。不整脈の原因・症状や、心房細動の治療に関する情報については、同社のHPでも紹介されているので参照されたい。

不整脈の原因・症状
https://www.jnj.co.jp/jjmkk/general/arhythmia

心房細動の治療法
https://www.jnj.co.jp/jjmkk/general/atrial-fibrillation

 同社バイオセンス ウェブスター事業部 バイスプレジデントの大多和裕志氏は、「脳卒中の患者さんの健康的な生活の復活やご家族の負担軽減を願い、脳卒中と不整脈の治療において、医療者の方々を支援する活動に力を入れていきたい」と話す。

 今後も、脳卒中・循環器病対策基本法を柱に、地方自治体や医療機関のみならず、企業とも広く連携して脳卒中に立ち向かい、予防・急性期治療・再発予防を拡大していくことが求められるだろう。香川県の事例が、全国へ向けてさらに活用されることを期待したい。

詳しくはこちら >

*  *  *

※1 厚生労働省 平成28年国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html

※2 「脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握」報告書 2022年 (日本脳卒中データバンク)

※3 脳心連携の詳細について
https://www.chp-kagawa.jp/department/a014/detail024/

※4 Hata J,et al: J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2005

※5 Senoo K, Suzuki S, Sagara K, et al. Distribution of first-detected atrial fibrillation patients without structural heart diseases in symptom classifications. Circ J 2012; 76: 1020–1023. PMID: 22451452

提供:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー