中学受験を経て大人になった社会人は、小学生時代の受験経験をどうとらえているのか。中学受験の影響をポジティブ、ネガティブ両面から振り返ります。探求学習の第一人者として知られる矢萩邦彦さん編著『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本』(二見書房)から紹介します。

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 自らの中学受験経験について、社会人たちはどのように考えているのかをアンケート調査したなかで、中学受験の特徴が端的に現れているケースをご紹介したいと思います。

【桐蔭出身で企業の人事部で働く20代の男性】

 ポジティブな面は、「受験中や入学後に出会った同級生は大学まで近しい進路を取るため、社会に出てからも続くような関係が得られた」こと。ネガティブな面は、「周囲からの期待値をコントロールしづらい場面があると思います」。

【暁星出身で編集者として働く30代の男性】

「当時の経験が直接社会生活に影響しているとは思わないが、自身の態度や嗜好性などに広範に関係しているように思う」。ポジティブな面は、「中学受験時も進学後も、自分よりも“頭の切れる”“面白い”人にたくさん出会えたおかげで、コミュニケーションが楽しかった。また公立小学校での自分自身の人物評と広い社会におけるそれとのギャップを知り、早くからある種の素朴なアイデンティティの危機を経験したことは良かったと思う。自分自身の「個」とは何かを強く意識させられた」。ネガティブな面は、「あんまり面白くない人、ある種の非教養人への興味が著しく希薄になってしまった」。

【同志社国際出身で大手企業の経営企画部で働く20代の女性】

 中学受験のポジティブな面は、「初めての挫折と成功を味わえた」こと。中学受験のネガティブな面は、「受験中、何が起きてるか、何を評価されてるのかよくわからなかった」こと。進学後のポジティブな面は、「中高大一貫校だったので、大学までの未来が保障されていて、自分の人生を何に使うべきかよく考えることができた」こと。進学後のネガティブな面は、「赤点がないまま進級ができるので入学後に挫折がなく、そのため自分も含めて基礎がない“意識高い系”が多かった」こと、また同級生について「人生の使い方を考える時間があるのに具体的な行動を取る学生の割合は低く、自分探しをしながら昭和的なライフステージを歩いてる印象」で、「同質的な人間ばかりに慣れるので、卒業後も群れやすいと思います」。

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矢萩邦彦
中学受験塾塾長 矢萩邦彦

やはぎ・くにひこ/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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