ディランさんは日本の生殖補助医療の状況を疑問視する(撮影/大野和基)

日本の生殖補助医療の状況を疑問視

 日本では今、超党派議員連盟「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」で、精子提供に関わる新たな法整備についての議論が進められている。だが、子どもの出自を知る権利を完全に保障することは認められず、さらにレズビアンカップルやシングル女性が日本国内の医療機関で提供精子を使った生殖補助医療を受けることが禁止される見通しといわれている。

 ディランは日本の状況について、「家族観は近年大きく変わり、どのような形で家族をつくるかを法律で制限すべきではない」と疑問視する。筆者もディランの考えに大賛成だ。

結婚は続かないことが往々にしてありますが、親であることは終わることはありません。いかなる形であれ、親が子どもを持つ権利を法律で禁止するのはおかしいです」

1人の精子から生まれる人数に制限を

 第二、第三のディランはすでにいる可能性があるし、これからも現れる可能性がある。ザイテックスでドナーのリクルーターを担当するローレイン・オケリー氏は、こう明かす。

「我々の精子バンクのドナーの73%は〈オープンID〉を選んでおり、昔と比べてかなり増えました。2つの理由があると思います。ひとつは〈オープンID〉を選んだほうが1回の提供でもらえる金額が大きいこと。もうひとつは遺伝子検査が安価でできるため、Donor-conceived children(AIDで生まれた子ども)が、自分と(育ての)父親が遺伝上つながっていないことが簡単にわかる可能性が高いことです」

 ディランは強い口調で言う。

「『1人の男性の精子から生まれてくる子どもの数のリミットをもうけよ』と精子バンクに何回も言いましたが、聞く耳をもってくれませんでした。精子は精子バンクの商品であり、一度提供した精子は精子バンクのもので、私の権利はないと言われたのです」

 新しい生命が生まれることの重大さを、精子バンクは軽視しているのではないか。ディランの人生と子どもたちの人生がどうなるのかこそ、重視すべきではないのだろうか。

(ジャーナリスト・大野和基)

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