●おしりの穴をめざして「泳ぐ」 マメガムシ
口から脱出するよりもっとおどろきなのが、今年8月に杉浦准教授が発表した、おしりの穴から脱出するマメガムシの例だ。
マメガムシは、田んぼなどでふつうに見られる体長5ミリメートルほどの水生昆虫で、カエルの生息する環境にすんでいる。杉浦准教授は、マメガムシの中にはカエルに食べられてもミイデラゴミムシのように口から出てくるものがいるはずだと予想。マメガムシをカエルと同じ水槽に入れ、ビデオカメラなどを使って長時間におよぶ実験・観察を行った。
結果は、予想を超えるものだった。実験では5種のカエルが用いられたが、ニホンアマガエルとトノサマガエルに丸のみされたマメガムシの90%以上が、数分~3時間半のうちに、カエルの口ではなく、おしりの穴から生きて出てきたのだ。
多くのカエルにはかみくだく歯がなく、獲物を丸のみして、強力な消化液で消化し、栄養を吸収する。しかも、胃や腸など消化管の中には酸素がほとんどない。この厳しい環境の中を体長5ミリメートルほどのマメガムシはどのように生き延びるのだろう? 杉浦准教授に聞くと、
「マメガムシは硬い『外骨格』で身を守って、酸性やアルカリ性の消化液に耐えていると考えられます。また、水の中で暮らすために羽の下に空気をためることができるので、それを呼吸に使うことができそうです。そして何よりも重要なのは、マメガムシは受け身で排出されるのをただ待つのではなく、自分からおしりの穴に向かって『泳ぐ』ように進み、カエルの腸を刺激し、便意を催させて体外に出ると考えられる点です」
このように、能動的に天敵に刺激を与えて便意を催させ、のみこまれても脱出できる昆虫が見つかったのは初めてだという。田んぼという身近な自然に、忍者もビックリのスゴ技を使う昆虫がいるなんて、自然の奥深さには感動してしまう。杉浦准教授は、読者にこんなメッセージも送ってくれた。
「身のまわりの身近な自然にも、まだ知られていない生き物の不思議な生態がたくさん隠されています。それを見つければ世界的な発見になるかもしれません!」
(サイエンスライター・上浪春海)
※月刊ジュニアエラ 2020年11月号より