日本生まれの日本育ちな日本人でも、ちょっと海外に暮らしてから日本に戻るとカルチャーショックを受けることがあります。アメリカに約6年間暮らし、最近日本に帰ってきたわたしにとっては、公共スペースに置かれているおむつ交換台がそのひとつでした。

 わがやの下の子は、まだ2歳になったばかり。おむつが外れる気配はまったくないので、外出先ではおむつ交換台のお世話になります。駅、デパート、博物館、レストランなど多くの施設におむつ交換台があるのはありがたいのですが……気になるのは、交換台が人目につく場所に設置されていることが多い点です。

 初めに驚いたのは、とある美術館に行ったときでした。アメリカから日本に帰ってきて、約1カ月。自主隔離期間も無事に終え、アメリカ在住時からずっと憧れていた美術館にどうしても行きたくて、子どもと足を運びました。子どももわたしも大満足。2時間ほど滞在し、さて下の子のおむつを替えなくちゃとお手洗いへ行ったところ……面喰いました。おむつ交換台が、お手洗いの中ではなくその手前、廊下に置かれていたのです。

 廊下は人通りが激しく、しかもそばに階段もあったものですから、横から見られ、上からのぞきこまれるようで気が気じゃありませんでした。もちろん大抵の人は子どものおむつ交換現場なんかまじまじと見ませんし、むしろ見たくない人が大半でしょう。でも、おむつ交換というかわいいわが子のもっともプライベートな場面を人が行きかう廊下で行うのは、ひどく抵抗感がありました。

 その美術館は子ども専用というわけでは決してなく、当日は大学生らしき友人連れやカップルの姿を多く見かけました。「元々おむつ交換台がなかったところ、要望を受けて後から設置したのかな。お手洗いの中に置くスペースがなくて、仕方なく廊下に置いたということか……」と自分を納得させ、美術館を後にしました。

 ところが日本に戻って1カ月、2カ月と経つにつれ、その美術館が例外ではなかったことがわかってきました。あるデパートでは、おむつ交換台がお手洗いの入口すぐ横に置かれていました。お手洗いは階段の踊り場にあるため、入口横のスペースは階段を下ってくる人からのぞき込まれてしまいそうです。またある駅の「子どもトイレ」は、駅の通路にむきだしの状態で設置されていました。壁も衝立もないので誰でもひょいと入れますし、行きかう人からは中の様子が丸見えです。子ども用の便器は100センチ程度の低い壁で囲まれているものの、上からのぞき込まれるんじゃないかとヒヤヒヤしてしまいました。

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大井美紗子
大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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