「最初は、なんで忘れ物をする前提で話が進むんだろう、と思っていました。でも、思い返すと、忘れ物をして届けてもらうことが何度もあった。今は、家から近い学校を選んでよかったな、と思います」
無事合格した学校では先生や友達、先輩に恵まれ、創作活動にも集中できた。「中学生の間に、2冊も本を出せました。新刊を出すとサインを頼まれたり、学校にポスターを貼ってくれたり。温かく見守ってくれています」
デビュー作『さよなら、田中さん』に収録され、書名にもなっている書き下ろし作品は、中学受験に失敗した男の子、三上くんの視点から語られる。また、続編の小説には志望校に落ちて公立中学校に通う子や、難関中高一貫校に受かったものの中退した青年が登場する。
「中学受験に対して、否定的な気持ちがあるわけではありません。目標に向かって物事に取り組むということは、中学受験もスポーツも音楽も同じで、その努力は等しく称賛されるべきだと思います。ただ、全ての人が望みどおりの結果にはならない。負けたり失敗したりしたあと、どう生きていくかが大切だと思う。だから、小説ではその先を描きたかったんです」
そしてこう続けた。
「本当の目標は受験よりも先にあるはず。そこにたどり着く方法は何通りもあって、もしだめでも別の道があるということが、作品を通して伝わったらうれしいです」
すずき・るりか
2003年、東京都出身。中学受験を経て、現在都内の中高一貫校に通う高校生。小学4年生のときに小学館主催の「12歳の文学賞」で大賞を受賞。その後も2年続けて大賞に選ばれる。中学2年生のときに、『さよなら、田中さん』(小学館)で小説家としてデビュー。これまで、4作品を刊行。21年6月刊行の『今読みたい太宰治私小説集』(小学館文庫)では、初めて解説も担当。
(文/濱田ももこ=編集部)
朝日新聞出版