地球には約40億年前から海の中に熱水噴出孔があり、そこでは地球内部から噴き出す熱水や周囲の海水に含まれるさまざまな物質から、生物の体のもとになる有機物がつくられていた。あるとき、その有機物がたまたまできた膜の袋に閉じ込められ、その内部で特定の化学反応が繰り返し起こるようになり、それが最初の生命になった――多くの研究者は生命誕生の筋書きをこのように思い描いている。高井さんらJAMSTECの研究者たちも、実験室に40億年前の深海と同じような環境を再現し、有機物ができることを確かめている。
これまでのところ、地球以外のどこにも生物は見つかっていない。このことから、生命の誕生は簡単に起こることではないと想像できる。では、約40億年前の地球で、生命の誕生が起こったのは1回だけなのだろうか。それとも何回か起こったのだろうか。
「私たちは、何度も何度も起こったと考えています」と高井さんは言う。
「ただし、その生命が続いていくことは難しく、生まれては死に、生まれては死んだ。そして、たった一つの系統だけが5億年後のルカにまでつながったと考えられます。つまり、生命の誕生自体はありふれたことだったけれど、その生命が5億年後のルカへ、そしてさらに現在まで続いてきたことは、奇跡中の奇跡だったのです」
●海は宇宙以上に謎だらけ
深海とは、水深200メートルより深い海のこと。距離的には宇宙よりずっと近いのに、宇宙より多くの謎に満ちているともいわれる。「最初の生命誕生」という大きな謎だけでなく、生物やさまざまな現象の謎もいっぱいなのだ。
「海はものすごく近くにある巨大な未知です。海に興味を持って、海を好きになってください!」
高井さんはインタビューの最後に、キミたちにこんなメッセージを送ってくれた。
(サイエンスライター・上浪春海)
※月刊ジュニアエラ 2021年9月号より
朝日新聞出版