きちんとお礼の言える子に育てたいからと、親が「ママ(パパ)がやってあげたんだよ。そういうときは何て言うの?」などと「ありがとう」を強制するのは禁物だ。「感謝しないと叱られる」という意識が芽生え、“強要されたありがとう”になってしまう。心がこもっていないことは相手にも伝わってしまう。わが子を「ありがとう」を強いるような度量の狭い人間に育てたくなければ、親は自分の言動を見直す必要がある。
■自分の思いを話す機会を定期的に設ける
諏内さんは、お互いを認め合える家庭の特徴として、「子どもが自分の意見を言えること」を挙げる。親が自分を受け止めてくれる安心感とは、自己肯定感と言い換えてもいい。自分の存在が大切にされていると感じられるからこそ、子どもは自分の思いを心置きなく言葉にすることができる。
「まずは否定や反対はせずに、『あなたはそう考えているのね』と認めてあげることがとても大切です。親の理解の深さこそ、子どもが多様性に富んだ社会で柔軟に生きていくうえでの礎になります」
小学生になれば自分の意見を堂々と言えるようになってほしい、というのが諏内さんの考え方だ。子どもが小さなうちから自分の思いを話す機会を定期的に設けるのが親の務めだという。諏内さんは特別な日のスピーチを勧める。
「たとえば誕生日に『6歳になったけど、どんなことに挑戦してみたい?』というテーマで話してもらいましょう。入学式や習い事の発表会の前日などでも構いません。スピーチという形で、周りに頼ることなく自分の考えを話せる習慣をつけてあげるといいと思います」
その際、「どうしてそう考えるの?」「どうすればできると思う?」と話をつなぐ会話を意識するといいという。「なぜ?」「どのように?」と頭を働かせることで、理由や根拠、具体性をもとにする思考の“型”が身についていく。
■育ちの良さを生み出すのは親の姿勢
近年、小学校受験では「行動観察」を今まで以上に重視する学校が増えてきたと言われている。自分の考えを伝えられるか、周りの意見に耳を傾けられるか、協調性があるかなど、小さいながらもわずかな時間で人間性が問われ、合否が左右される。
諏内さんは「子は親の鏡ですよね」と締めくくる。子どもが相手を敬う“型”を身につけ、自分も周囲から敬意を払ってもらえるようになるかどうかは、親の日々の言動にかかっている。小学校受験や小学校生活に大きな意味を持つ育ちの良さを生み出すのは、親にほかならない。
諏内えみ(すない・えみ)
マナー講師。東京都港区の「マナースクール ライビウム」と、高合格率を誇る「親子・お受験作法教室」の代表。映画やドラマでの俳優の所作指導や、幼稚園、小学校受験に向けた行儀、願書、面接指導を行う。『良家の子育て』(毎日新聞出版)、『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)、『知らないと損をする男の礼儀作法』(SBクリエイティブ)など著書多数。
(文/菅野浩二)
※『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2022」』から抜粋
朝日新聞出版