文部科学省は「思考力・判断力・表現力」の育成を重視している。“ちょい足し”は、これらの力を向上させることにも役立つ。
「子育てにおいて私が重視していることの一つに、子どもに“しゃべらせること”があります。小さな子は理路整然と話せません。でも、親が“ちょい足し”することで、会話が論理的につながります」
親子の対話では、いろいろな角度から質問をぶつけることがポイントになる。柳沢さんは続ける。
「子どもが『今日は楽しかった!』と口にしたら、『何が楽しかったの?』『いつやったの?』『どこでやったの?』『誰とやったの?』『どんなふうにやったの?』と、一つずつ相槌を打ちながらゆっくりと投げかけるのです。このやり取りの連続により、子どもは自然と考える力、内容を選択する力、論理的な表現力を身につけていきます」
■細かな部分をほめると子どもの自信につながる
“しゃべらせること”とともに、柳沢さんが勧めるのが“ほめること”だ。大切なのはそのほめ方。全体を見て「うまいね」と言うのではなく、具体的な部分を挙げる。絵の描写、色の塗り方など、「細部をほめることで、自信につながります」と柳沢さんは言う。
また、柳沢さんはほめるときの比較対象の捉え方も重視する。
「私は“垂直比較”という表現を用いているのですが、わが子の過去と現在を縦線で比較して、よくなった点や成長した部分をほめるのです。親は、わが子を垂直比較できる完璧な特権を持っている。それは、生まれたときからその子のことを知っているということです。つまり、親こそが子どもに自信を与えられる存在なのです」
■成功体験を通じて自己肯定感が育まれる
特に、子どもが成功体験に直面した際は、いかに貴重な瞬間であるかを伝えることが大切だという。
「人間が新しいことを身につけようとするとき、最初のうちは努力してもうまくいきません。自転車に乗ること、英語のヒアリング、ピアノの演奏。でもある時期を境に、すべてがうまく動きだす。だから、最初の難しい時期をいかに耐えられるかが成功に向けた一つのポイントです。そして、うまくいった瞬間を親が感じ取り、具体的にほめてあげることが、子どもの将来に大きな影響を与えます」
ささいな成功も無視してはいけない。成功体験を通じて子どもの自信と自己肯定感が育まれると柳沢さんは考えている。
「『自分はこれが得意だ』と言えるものが一つあれば十分。将来的にはそれで生計を立てられます。本人が努力して得意になったことであれば、より自信と自己肯定感を得ることができますし、自信こそが生きる力になります
柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
北鎌倉女子学園 学園長。開成高等学校、東京大学工学部卒業。民間企業に勤務後、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授などを経て、2011年から開成中学校・高等学校校長を務めた。20年4月から現職。『尖った子どもに育てなさい 激動の時代を生き抜く「強み」の見つけ方』(中央公論新社)など著書多数。
(文/磯田智見)
※『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2022」』から抜粋
朝日新聞出版