■牧場、博物館、工作。受験がくれた笑顔

 当時を振り返り、特に反省しているのは、叱りすぎたことだと堀井さんは話す。

「あせっているから、叱らなくていいことで叱っちゃうんです。『ねえ! なんであそこに鉛筆置いたの?』『なんで鼻歌うたうの?』って。鉛筆なんてどこに置いてもいいし、鼻歌だって楽しいからうたう。息子は叱られる意味がわからなかったでしょうね」

 それでも受験準備の日々の中には、キラキラした記憶も数多く残っている。 

「体験を増やすことが受験の役に立つと聞いて、早起きして親子で散歩したり、週末に牧場や博物館に行ったりしました。長女は当時小学生だったのでよく覚えていて、『楽しかった』って言いますね」

 親子でさまざまな工作をしたことも素敵な記憶だ。

「一時期、紙吹雪作りが超ブームだったんです。大量に作って『おめでとー!』ってテーブルの上から部屋中にまくの。めちゃくちゃ楽しいんですけど、掃除がね、地獄」

 笑いながら懐かしい日々を語る堀井さん。受験対策だとしても、その笑顔は一生の宝物だ。

■小学校受験から15年たったいまわかること

「長女の幼児期は、自転車で保育園までガーッと送り届けて、そこから職場に突っ走る日々でした。受験がなかったらあんな時間は作れなかったかもしれません」

 私立小の丁寧な学習指導は長男に学ぶ楽しさを教えてくれ、小学校時代の仲間とはいまも親友だ。ただし、「残念ながら彼は、いまだに“どうでもいいじゃん精神”で生きている」そうだ。

 公立小で育った長女は、中学受験で中高一貫校に入学し、海外留学も経験。希望の職種に就職を果たした。

「ママ友とも話すんです。『どんなに親が環境を整えても、その子はその子のままで成長するよねぇ』って。親は受験の合否で子どもの人生が左右される気がするんです。確かに人生のレールは無数にあるから、親はどの列車に乗せたらいいか真剣に考えるし、乗り遅れたら目的地には着けないと思いこんでしまいます」

 でも、それはちがうと言う。わが子やその友だちの成長が、堀井さんに教えてくれた。

「希望の列車に乗れても、ずっときれいな景色が見られるわけではないし、別々の列車に乗っても大学や仕事で再会することもあります。子どもの力はすごいから、どこからでもリスタートできる。親の役目は、ご縁のあった学校で最大限子どもがハッピーに過ごせるようにすることなんだって、改めて思うんです」

 堀井さんはTBSで長く新入社員の採用担当をしてきた。希望の大学に合格しても、希望の仕事に就けるわけではないことも知っている。

「優秀な学生ほど、学校名や企業名にこだわっていません。受験するとき、つい親は学校の名前にこだわるんですけど、『ここに入ったらこの子はどう育つんだろう』とイメージして、その子らしく育っていけそうな学校を選ぶのがいいと、私は思います」

堀井美香(ほりい・みか)

1972年生まれ。95年に法政大学法学部卒業後、TBS入社。TBS系列の番組で多くのナレーションを担当。2022年3月末に退社し、フリーに。2児の母で、働きながら長女の中学受験と長男の小学校受験を経験。コラムニストのジェーン・スーと共にパーソナリティーを務めるPodcast番組「OVER THE SUN」を毎週金曜日に配信。

(文/神 素子)

※AERA English特別号『英語に強くなる小学校選び2023』より

【AERA English 特別号】英語に強くなる小学校選び 2023 (AERAムック)

朝日新聞出版

【AERA English 特別号】英語に強くなる小学校選び 2023 (AERAムック)
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AERA dot.編集部
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