今は私が子育てをしていた頃以上に科学や技術の進歩がめざましく、移り変わりの激しい世の中ですが、人間にとって大事なことはそう簡単に変化するものではありません。
とはいえ、私は技術の進歩を否定しているわけではありません。しかしそもそも家電の登場で家事が楽になったことと、ITのツールで子育てが楽になることとは根本的に違う、と思うのです。
例えば、洗濯機で洗濯をするのと、手洗いで洗濯をするのでは、洗濯機を使ったほうが圧倒的に時間も労力も省略できるのですから、洗濯機を使ったほうがいいです。掃除機や調理器具などもそうです。
ITツールの出現も世の中を一新し、何事も便利になりました。しかし、だからといって絵本の読み聞かせを親がやるのではなく、スマホやタブレットを子どもに渡して、動画を流して聞かせても同じでしょうか。親は楽かもしれませんが、子育ての本質が変わってしまいます。
育児は、その手間に意味があることが多いのです。絵本を読み聞かせることは、親が子どもに自分の声で言葉を伝えることであり、家族のコミュニケーションであり、親のぬくもりで子どもに安心感を与えるなど、大事なことがたくさんあります。IT機器に任せていいはずがありません(もちろん、先天的に読み書きが苦手でIT機器を使ったほうがいい子は別です)。
石器時代から、親は子どもに言葉を教え、数の数え方を教え、他者とコミュニケーションをとれるように子どもを育ててきたと思います。それは大昔も、そして今でも変わっていません。
私は子どもは本当に原始的な生き物だと思っています。だから、電源がなくても、タッチペンがなくても、地面に石で文字を書けるようにして、それができれば紙に鉛筆で書けるようにするべきだと思っています。
人間の発達を考えた時、どんな時代でも「読み、書き、計算」が最も重要なのです。だから、スマホやタブレット端末での一人遊びが、絵本の読み聞かせの代わりになることはありません。
子どもにスマホやタブレットを与えて一人で遊ばせておくと、その時は楽かもしれません。しかし、親子のコミュニケーションは人間としての基礎を作ります。学校で学ぶ勉強もその上に成り立ちます。子どもに賢く育ってほしいなら、せめて12歳まではIT機器に頼らない、昔ながらの育児をするべきだと思っています。
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