子どもに英語教育を始めるとしたら、早ければ早いほど効果はある? 親ができることとは? 茂木健一郎、瀧靖之、脳科学者2人が語り合った。『AERA English特別号 英語に強くなる小学校選び2020』(朝日新聞出版)から抜粋して紹介する。
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茂木健一郎さん(以下、茂木):言語習得については、興味深い話があります。ある研究者が、アメリカ人の赤ちゃんに中国語で絵本を読む実験をしたところ、インストラクターが直接読み聞かせをした赤ちゃんは、中国語の微妙な発音の違いを聞き分けられたのに対し、音声やビデオのみの読み聞かせでは聞き分けができなかったそうです。子どもの脳って、身体性が伴う状況に置かれて初めて「本気」になるんですね。
瀧靖之さん(以下、瀧):「リアルな体験」は、語学を学ぶ上で非常に大切です。子どもは模倣によって能力を獲得しますからね。英語が使われている国に旅行に行くことや、親が英語を使っている姿を見せることにも、意味があると思っています。
茂木:子どもって、自分以外の人が何か話しているのを見ると、そのコミュニティーに入りたいという気持ちになるんですよ。親が英語を話しているのを見た場合も、同じようなことが起きると思います。
瀧:普段、日本語しか話さない両親が英語を話している姿って、子どもにとっては強烈に映るのかもしれませんね。
茂木:英語学習に関しては、「習うより慣れろ」っていう部分もありますね。日本人の子どもが親の転勤とかで海外の学校へ通うと、半年くらい何も話さない「サイレントピリオド」と呼ばれる期間がある。でもその間も、実は脳の回路には潜在的な変化が蓄積していて、あるときすべてがつながるんです。よく帰国子女の人が言うでしょう? 「突然 英語が分かるようになった」って。ああいう体験をみんなができるといいんだけどなぁ。
瀧:脳が変化する力、いわゆる可塑性ですよね。日本人の子どもが突然、英語環境に入れられると、最初は日本語のルールに従って理解しようとするけれども、当然うまくいかないわけです。その後しばらくトライ&エラーを繰り返すうちに、一度固定されたシナプス(神経の接合部分)に新たな道が作られて、再度最適化されていく。このトライ&エラーの期間がサイレントピリオドで、シナプスが最適化されると英語が理解できるようになる、と。可塑性は子どものときのほうが大きくて、加齢とともに下がっていきます。だから英語学習は早く始めたほうがいいんでしょうけど、英語の早期教育が必要かについては、議論が分かれていますね。
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