中国の月探査機「嫦娥(※注1)4号」が今年、世界で初めて、月の裏側への着陸に成功した。宇宙科学分野の最先端にいるアメリカやロシアも成し遂げられなかった快挙だ。月の裏側への着陸はどうして難しいのだろう? 裏側に着陸する目的や意味は? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』5月号に掲載された記事を紹介する。

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 月はいつも地球に同じ面を向けて、地球のまわりを回っている(※注2)。地球に向いた面は「表」側と呼ばれていて、月はけっして「裏」側を見せない。そのため、1959年に、ソ連(現在のロシア)の月探査機ルナ3号が写真に撮るまで、月の裏側は未知の世界だった。その後、アメリカやロシア、日本などの探査機が月を周回しながら観測し、裏側の様子も次第にわかるようになってきた。ただし、裏側に探査機を着陸させた国はなかった。その理由は、地球から電波を送っても、月そのものにさえぎられて裏側の探査機には届かないからだ。ということは、地球から電波で指示を出すことも、探査機や月面車が観測した月の裏側のデータを送ってくることもできない。

 中国の「嫦娥4号」は、電波を中継する通信衛星を打ち上げることで、この問題を解決した。「鵲橋」(※注3)と名付けられたこの衛星は、地球からも月の裏側からも見える特別な軌道上をまわって、「嫦娥4号」と地球との通信を中継している。月の裏側に着陸するには高い技術が必要だが、特別な軌道上に通信衛星を投入する技術も、非常に高度なのだという。

 中国は、ソ連、アメリカに次ぐ有人宇宙飛行を2003年に成功させ、11年からは宇宙ステーション開発の前段となる宇宙実験室「天宮1号」、16年には同2号を打ち上げて、22年ごろを目標に中国独自の宇宙ステーションの完成をめざしている。火星に無人探査機を着陸させる計画もある。このように中国は、今や宇宙開発においても世界屈指の技術大国だ。

■南極近くのクレーターで観測中

「嫦娥4号」は、月の裏側の南半球にある「南極エイトケン盆地」内の「フォン・カルマン・クレーター」に着陸した。南極エイトケン盆地は直径約2500キロ、深さ約13キロに達する巨大なクレーター群だ。数十億年前に巨大な隕石が衝突してできたと考えられ、その際に掘り返された月の内部の物質が地表に固まっているとみられている。また、これまでの各国による探査から、月の裏側は表側とは地表の様子も地質もかなり違うことがわかっている。「嫦娥4号」が着陸地点付近の物質を調べることで、月の内部のつくりや、月がどのようにしてできたかなどがくわしくわかるのではないかと、世界の研究者が期待を寄せている。

 月の裏側は、電波望遠鏡(※注4)による宇宙観測の好適地でもある。地球には厚い大気の層があり、星や銀河などからの光や電波を届きにくくしている。一方、大気のない月は宇宙観測に有利だが、月の表側は地球で人間が出している電波や、地球のオーロラから出る電波の影響を受けることがある。月の裏側はこれらの影響がないので、電波による宇宙観測には理想的な環境とみられているのだ。

 こうしたことから、月の裏側に着陸して科学的な観測をすることには大きな意味がある。

 中国だけでなく、アメリカ、ロシア、インド、日本などが、将来、月に基地をつくることを考えている。月にはハイテク製品に欠かせないレアアースや、将来の核融合発電(※注5)に必要なヘリウム3もあると考えられ、その資源に興味を示している国もある。

「嫦娥4号」は、積んでいった「玉兎(※注6)2号」という探査車とともに、月の裏側で調査を行っている。これまで知られていなかった月の裏側の様子が伝えられてくるのを楽しみにしていよう。

※注1 「嫦娥」は月にすむ伝説上の仙女の名前。 

※注2 月は自転と公転の周期がどちらも27.32日なので、いつも同じ面を地球に向けている。

※注3 「鵲橋」は七夕の夜にたくさんのカササギ(鳥)が翼を並べて天の川にかけるとされる伝説上の橋。

※注4 電波望遠鏡は、星や銀河などから届く電波をキャッチして、天体や宇宙の様子を観測する装置。

※注5 核融合は、太陽の中心部で行われている莫大なエネルギーを生み出す反応。これを地上で発電に利用するのが核融合発電。実現にはまだ数十年かかるといわれる。

※注6 「玉兎」は月にすむ伝説上のウサギ。

(サイエンスライター・上浪春海)

ジュニアエラ 2019年 05 月号 [雑誌]

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AERA編集部
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