父:そうなのかな。僕は紙芝居もかなり作っていて。ワークショップを海外でもしているんです。ちょうどミャンマーで10日間やってきたばかりです。紙芝居は見るだけでなく、作ること、演じることができる、日本生まれの古くて新しい「自己表現」のメディアなんです。太郎の漫画のコマも動かないから、確かに紙芝居的ではあるけれど、そのまま紙芝居になるかというと、そうはならないと思うよ。

太郎:紙芝居にはできない?

父:太郎の場合は、ぐっとフォーカスしたり、不思議な間があったり、映画的な手法が含まれていると思う。太郎なりの工夫がそこにはある。太郎の大家さんに対する感じ方を表すのには、今の漫画という表現方法が一番なんじゃないかな。

太郎:確かに、「大家さんのことを描きたくて、最終的に漫画にたどり着いた」という感じはあるんだよね。表現したいこと、描きたいことがあって、それをどんな風に伝えたら、一番伝わるかなと。

父:それが小説になる人も、絵本や音楽になる人もいる。

太郎:小説も、本当にちらっとだけ考えた。ほら、又吉(直樹)君がちょうど賞をとった後だったから(笑)。もちろんお笑いでも考えたけど。表現の一つとしてエピソードトークでね。でも、それだけだとこぼれ落ちるところがあるなと。例えば、本の中にもある「大家さんにお誕生日におはぎでお祝いされた」というエピソードは、トークで話してもウケると思うんです。でも僕が描きたかったのは、その後の話で。「戦争中砂糖の配給が終わってからはおはぎが甘くなかった」とか、「誕生日の歌は英語禁止だったから歌えなかった」とか。でもそれは多分、トーク番組ではカットされると思うんです。それはやっぱり小説でもないし、漫画が一番よかったのかな。大家さんのテンポとも合うし。やっぱり「何を描きたいか」というのが、一番大切なんだと思う。

父:描きたいことを工夫して、自分なりに表現する。この漫画の構成や、余韻というか独特な「間」は、太郎自身が見つけた表現なんだよね。素晴らしいと思うよ。

●やべみつのりさん
1942年岡山県生まれ。絵本・紙芝居作家。1977年より子どものための造形教室「ハラッパ」を16年主催。著書に『かばさん』(こぐま社)、『あかいろくんとびだす』(童心社)など多数。96年高橋五山賞奨励賞受賞。紙芝居に関するワークショップも国内外で行う。

●矢部太郎さん
1977年東京都生まれ。お笑いコンビカラテカのボケ担当。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優として活躍。気象予報士の資格も持つ。自身の経験をもとに描いた初となる漫画『大家さんと僕』で2018年手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。

AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2018年 冬号 [雑誌]

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AERA編集部
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