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人生のキセキ 〜セブン-イレブンとともに

|16|平野 義雄 セブン–イレブン白浜滝口店オーナー 高齢化が進む地域に明かりをともし続ける

お客さまに寄り添う商売を貫くオーナーの平野義雄さん(63)と妻の智子さん(61)。
開店から23年、挑戦する姿勢は変わらない(南房総市・白浜野島埼灯台で撮影)

コンビニのオーナーになったのは、お客さまのことを第一に考える、
セブン-イレブンの経営哲学に共感したからだ。
高齢化が進む町での商売は、人と人とのつながりが何よりも大切。
変化に対応しながら、従業員さんと一緒に地域の暮らしを守りたい。

企画・制作/ AERA dot. AD セクション

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1990年代後半、オープン当初の「白浜滝口店」の売り場風景。主婦のパートさんたちの頑張りがありがたかった

 千葉県・館山駅から車で約20分。昼時の「セブン-イレブン白浜滝口店」は、お客さまが集い、にぎやかだった。

「肉まんとあんまん、ふたつずつ」

「私もあんまん、ちょうだい」

「コロッケ三つと肉まんも食べようか」

 杖をつく女性や、ショッピングカートを押す女性、軽トラックでやってきた男性など、多くの高齢のお客さまが、従業員らと親しげに会話をしながら買い物を済ませてゆく。この店は、中華まんが売れているなと見ていると、「いつものね。あとで取りにくるから」と、従業員にことづけて帰る男性客も現れた。

 お客さまと従業員との距離が驚くほど近い。ゆっくり売り場を歩きながら品定めをする高齢の方々は、みんな楽しそうだった。

厳しい環境での挑戦

「昔から白浜地区は人口が少なく高齢化比率が高い。その分、お客さま一人ひとりと密接なつながりを築いて、商売をさせていただこうと心がけています」

 オーナーの平野義雄さん(63)は、そう話す。義雄さんは、元小学校の教員。家業が酒屋の智子さん(61)と結婚したのち、商売の道へ転身した。智子さんが言う。

「ある日、セブン-イレブンの本部の方が加盟しませんかと、うちの店に来られて。驚きました」

 新規出店が続く1990年代の話だ。

「覚えているのは本部の方が『(訪れたのは)この店が光り輝いて見えたから』とおっしゃってくれたこと。居心地のいい店づくりをするという点で、セブン-イレブンと通ずるものがあると思いました」

 こう義雄さんも振り返る。商売と向き合う日々の中で、さまざまな書籍を読んだ。その中でセブン-イレブンの経営の基にある「お客さまの目線、立場で考える大切さ」に共感し、「やってみたくなった」と言う。

 加盟への決断に、智子さんも賛同。土地の形状の都合上、もとの酒屋はそのままに、本部の紹介で自分で土地を借り、オープンしたのが「白浜滝口店」だ。街道沿いの戸建てが目立つ住宅地で、隣は中学校という立地。家族が多いだろうと予測してのオープンだったが、実は義雄さんは楽観視してはいなかった。

「当時の白浜地区の人口は6千人ほど、隣の中学校の生徒数は160人くらい。それが今後減っていくだろうとわかっていましたから、厳しい商売になるだろうと感じていました」

 実際は、想像以上の厳しさだった。周囲は高齢者が多く、人通りが少ない。売り上げは伸び悩み、ふたりの子どもを抱えて、この先どうしようかと落ち込んだこともあった。でもすぐに、義雄さんと智子さんは気持ちを立て直した。「やるしかない」。知恵を絞って行動に出た。

お客さまに「便利」を届ける

 お客さまが来ないなら、こっちから行こう。義雄さんがやろうと決めたのは、御用聞きや配達だった。外出が難しい高齢者宅はもちろん、海が近い地域の特性を生かし、夏のオンシーズンにキャンプ場やリゾートマンションなどへやってくる観光客の囲い込みに挑んだ。

「オーナーが『お客さま、全員に満足して帰っていただこう、とくにこの時期に一番需要がある氷だけは切らすな』と号令をかけてくれたので、従業員さんと力を合わせて商売に臨みました」

 智子さんは、そう振り返る。続けるうちに「今年はここに泊まるから配達して」と常連のお客さまから注文が入るように。夏場をかき入れ時として、店の売り上げは、年々伸びていったという。

 同時に、地域を回る移動販売にも力を入れた。

「商品を積んで行くと、お客さまに感謝されるだけでなく、移動販売車の周りに自然と人が集まって、コミュニティーが生まれる。それが従業員のやりがいなんです」

 と、義雄さん。高齢者にとって移動販売車は、買い物だけでなく、人と人とのふれあいを運んでくれる存在だ。日に日に頼られるようになっていったという。

数字だけが全てじゃない。互いに助け合うのが商売の本質だ。
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庄司総雄(ふさお)さん(58・左)と武田信光さん(36)は、移動販売や配達で町の暮らしを支える

台風で痛感した使命

「あの台風の時ばかりは、『商売で本当に大切なことは何か』と自問しました」

 義雄さんが「あの台風」と言うのは、2019年9月に千葉県に上陸した台風15号のことだ。中心気圧960ヘクトパスカルという強風は、町から明かりを奪い、一部地域を断水させた。台風の上陸前夜、義雄さんは自家発電機の準備を始めたという。

「台風は毎年来るし、停電には慣れた地域ですが、風の強さがいつもと違った。胸騒ぎがして、発電機用の燃料を入れる携行缶を多めに用意しておきました」

 いやな予感が的中した。台風が離れても電気はつかず近隣は真っ暗。携帯電話も使えなくなり、本部との連絡もままならない中、義雄さんは迷わず判断したという。

「行政が動くまでの時間、お客さまの暮らしを守るのは、この地で商売をさせていただいている私たちの使命だ。地域に恩返しするために店を開け続けよう」

 自家発電で店の明かりをつけ、在庫商品を売り場に並べた。当初はあれほど停電が長引くとは思っていなかったが、日が経つにつれ、ここだけが社会から孤立してしまったような不安が町じゅうを襲った。だからこそ「店の明かりを消さない」。義雄さんたちは、その一念だったという。

 心強かったのは、必死な義雄さんと智子さんの背を押すように、近隣に住んでいる従業員たちが休むことなく店に入ってくれたことだ。「お客さまのために」。店の思いはひとつだった。勤務歴20年の石井里美さん(69)は、「お客さまから『開いていてよかった』という声を多くいただき、地域の中での店の役割の大きさを改めて感じました」と話す。

「困った時は助け合う、社会はそうやって成り立っているものでしょう。あの時、店を閉めるという選択はなかった」

 と、義雄さんは振り返った。

人口が減る地域を支えたい

 災害時に限らず、義雄さんと智子さんが貫く商売の中心にあるのは「人」だ。高齢のお客さまのために、買い物かごを載せるカートを用意するなど、目線はいつもお客さまのほうを向いている。

「今、白浜地区の人口は約4600人程度に減って、多くが高齢のお客さま。この店を頼られるお一人おひとりの顔が浮かびます。従業員さんたちと共に地域の暮らしを支えたい気持ちが一層強くなりました」

 改めて気づいたが、店にはベテランの従業員が多い。勤務歴10~20年ばかりだそうだ。

「うちの店は50~60代の従業員さんが中心。70歳後半の方も、元気に働いてくださっていますよ」

 と、智子さん。そもそもオープン前の従業員募集の際、義雄さんはハローワークの職員に「人生経験豊かな40~50代くらいの方をできれば希望したい」と申し出たという。人生の苦楽を知っている世代こそ、相手を思いやる商売に向いていると思ったからだ。期待をはるかに超え、キャリアを積んだ従業員たちが今、お客さまと信頼関係を築いているのがうれしい。

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右から勤務歴20年の石井里美さん(69)、同19年の森喜久枝さん(63)、平野義雄オーナーの次男で、
店長の平野泰良さん(30)。お客さまとの信頼関係を大切にしている

変化に対応し続ける

なんとかなる

 18年6月に2号店「セブン-イレブン安房千倉店」をオープンさせた。「店の数を増やすつもりはなかった」そうだが、出店を決めたのは千倉という地域が昔勤めていた場所で、土地勘があったからだ。

「お客さまの顔が見え、気持ちの通う商売ができるなら、ぜひやってみようと思った」

 と、義雄さんは言う。白浜滝口店をアルバイトとして高校生のころから一緒に働いてきた次男・泰良さん(30)に任せた。

「本音を言えば、真面目すぎる性格の息子に、自分の殻を破る経験をさせたかったんです」

 義雄さんは親心をのぞかせる。それがまた、店の新たな成長の鍵となった。

「店を任されて初めて、オーナーの苦労がわかった」と言う泰良さんは、両親の信念を受け継ぎ、近隣のお客さまとのつながりを大切に育てている。その誠実な姿に従業員も刺激され、さらに活気づいた。

「2号店の調子もいいんですよ」

 と、義雄さんと智子さんは笑顔を見せる。これからは親と子、そして長年共に働く従業員さんとのチームワークで、時代の変化に応じた店づくりをするのが目標だ。

「どんな時代になっても、商売の根っこは人と人との信頼関係。それを見失わない限り、成長できると信じています」

 義雄さんの言葉に、隣にいた智子さんも大きくうなずいた。

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SHOP DATA

セブン-イレブン白浜滝口店

住所

千葉県南房総市白浜町滝口1475

特徴

1997年2月27日オープン。高齢化が進む地域を支える商売に
徹する。2018年6月、2号店「セブン-イレブン安房千倉店」
を開店