出張に行くと、普段使っているSuicaが使えず、切符を買わなければならなかった……というのも、今は昔。SuicaやPASMOをはじめとする交通系ICカードが全国相互利用を開始してから、この3月で10年を迎える。
もはや私たちの生活になくてはならない交通系ICカードの全国相互利用。この10年の歩みについて、東日本旅客鉄道株式会社の担当者に聞いた。

 交通系ICカード全国相互利用とは、「Kitaca」「Suica」「PASMO」「TOICA」「manaca/マナカ」「ICOCA」「PiTaPa」「SUGOCA」「nimoca」「はやかけん」の電車やバスに乗れて買い物もできる機能が1枚で全国で相互に利用できるサービスのこと。
※買い物の相互利用についてはPiTaPaは対象外

 この相互利用が実現する前は、各社発行のカードの対象エリアを越えた場合、わざわざ乗車券を買う必要があったり、降車時に窓口精算ができなかったりと、かなり手間がかかっていたのを覚えている人も多いだろう。

東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 決済・認証ユニット 次長(電子マネー・認証) 田口暁さん
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 決済・認証ユニット 次長(電子マネー・認証) 田口暁さん

 Suicaの発行会社である東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)のマーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 決済・認証ユニット次長の田口暁さんが、当時を振り返る。

「特に関東では会社間をまたいだ相互直通運転の列車が多いため、お客さまにご不便をおかけしてしまうことが多くありました。また、大阪、京都、名古屋、福岡など出張や観光で訪れるお客さまが多い都市では、『いつも使っているSuicaが使えたら便利なのに……』というご意見をいただくことも多く、この不便をどうにか解消しなければいけないと思ってきたんです」(田口さん・以下同)

■交通系電子マネーの1日の利用件数が1000万件を突破

 しかし、相互利用の実現には、各交通系ICカードの発行会社が一丸となって取り組む必要がある。「各社がさまざまなサービスを展開しているなかで、どのサービスに合わせるのか」という点で、調整は難航を極めたという。

「当時の担当者によれば、会社間清算に関するデータのやりとりについても検討を重ねたそうです。たとえば、Suicaをご利用のお客さまが大阪駅の改札を出る場合、JR西日本がJR東日本に対して清算を行うことになり、そのデータを漏れがないようにやりとりできるようなシステムを構築する必要があります。そういった話し合いのために、参加する各事業者が月に2、3回一堂に会して、会議を行っていました。今のように、オンライン会議がまだ一般化していない時代だったので、スケジュールを調整するのも一苦労だったようです」

 さまざまな困難を乗り越え、2013年3月、「日本を一枚で。」のキャッチコピーを掲げ、全国での相互利用を開始。今や各社合計での交通系ICカード累計発行枚数は約2億枚以上にものぼる。

 交通系ICカードがこれだけ普及したのは、交通機関利用時だけでなく、電子マネーとして買い物にも使える利便性も影響しているだろう。

 2022年6月には、交通系電子マネーの1日あたりの利用件数が1000万件を突破。2023年3月現在、利用可能店舗は160万店を超える。

「ご利用拡大の大きな要因として挙げられるのは、コロナ禍で、感染拡大防止の観点から現金でのやりとりを避けるお客さまが増えたことでしょう。また、近年では複数の電子マネーを扱える端末も登場するなど、加盟店にとって導入しやすい環境が整ってきたことも、利用拡大の一因になっていると思われます」

 また、SuicaではJRE POINTとの連携も可能。乗車や駅ビルでの買い物時の利用でポイントが貯まり、貯まったポイントはSuicaにチャージして使ったり、新幹線の特典チケットに交換したり、JRE MALLでショッピングしたりするなどさまざまな利用方法がある。

 JRE POINTはJR東日本独自だが、ポイントについても各事業者がそれぞれオリジナルのポイントやサービスを積極的に展開している。

■モバイル利用で、窓口に並ばずに定期券購入ができる!

写真/amanaimages
写真/amanaimages

 コロナ禍において電子マネー同様に利用が広がっているのが、交通系ICのモバイル利用だ。

 2006年にはモバイルSuicaが、2020年にはモバイルPASMOがサービスインしたが、両社は2021年秋から、告知展開でも連携を強化し「のりかえよう、モバイルへ。」というフレーズのもと、共同でモバイル化を推進している。また、今年3月22日には、モバイルICOCAもデビューし、今後もモバイルの利用は拡大していくだろう。

 交通系ICのモバイル利用には、非接触以外にも利点がある。
たとえば、SuicaやPASMOをモバイルデバイスで利用することで、券売機や窓口に寄ることなく、いつでもどこでも定期券の購入やチャージができる。例年、春になると駅の窓口は定期券購入のために並ぶ人で大混雑するが、モバイル利用なら、その行列とも無縁だ。

 さらに、地方に目を向ければ、東日本エリアの各地でSuicaの機能を持つ地域連携ICカードのサービスも広がっている。

 地域連携ICカードとは、地域のバス事業者が運行するバスの定期券や各種割引などの独自サービスの機能と、SuicaエリアおよびSuicaと相互利用を行っているエリアで利用可能な乗車券や電子マネーなどのSuicaサービスが1枚で利用可能なカード。もちろん、JRE POINTの登録などSuicaの各種機能も利用できる。
2021年から地域連携ICカードの提供をスタートし、栃木県で「totra(トトラ)」、岩手県で「Iwate Green Pass」がサービスを開始した。

「昨年は2月から5月にかけ青森、岩手、秋田、山形、群馬の各県で新たに9種類の地域連携ICカードのサービスを始めました。そして、今年2月25日には青森県の弘南バスの「MegoICa」も登場。地方では特にバス利用のニーズも高いため、さらに連携を進めていきたいと考えています」

 年を追うごとに利便性が高まる交通系ICカード。JR東日本では、今後も現状に甘んじることなく、Suicaを用いたさまざまなサービスを展開していく予定だという。

「この10年、Suicaはお客さまのご利用に支えられてきました。この先10年も、さらにエリアや加盟店の拡大に取り組み、お客さまの暮らしの真ん中にあるカードであり続けたいと思っています」 

 交通系ICカード全国相互利用10周年を記念し、感謝の気持ちを込めて、3月21日から5月7日まで「交通系ICカード全国相互利用10周年キャンペーン」を全国で開催する。

 対象の交通系ICカードを利用し、鉄道・バスを2エリア以上かつ累計2500円以上利用した人の中から抽選でホテルペア宿泊券が当たるなど、さまざまなキャンペーンを行っているので、こちらも要チェックだ。

交通系ICカード全国相互利用10周年キャンペーンについて
詳しくはこちら >

提供:JR東日本