中国の習近平国家主席の義兄、イギリスのキャメロン首相の亡父ら、現旧指導者の親族61人の関係する会社の資料もあった。

 資料を分析すると、ロシアのプーチン大統領の友人でチェロ奏者のセルゲイ・ロルドゥーギン氏がタックスヘイブンの複数の会社の所有者となっていて、これらの会社に資金が流れ込んでいたこともわかった。プーチン大統領の周辺で少なくとも20億ドル(2千億円余)が、タックスヘイブンの会社や銀行を行き来したとICIJは結論づけている。

■巧妙な税逃れ、負担は一般家庭に

 タックスヘイブンに会社をつくることそのものは違法ではない。簡単に早く会社をつくることができ、国際的なビジネスを円滑に進められるメリットがある。

 でも、多くのタックスヘイブンでは、秘密の壁をとても厚くしているため、会社の役員や株主がだれなのかを調べるのがとても難しい。それで、いろいろと悪用もできる。

 いま、ヨーロッパを中心に大きな問題となっているのは、大企業や大金持ちの租税回避だ。各国の税金の制度の違いを組み合わせ、タックスヘイブンの会社や組合を資金の流れに関わらせることで、納税額を劇的に減らすことができる場合がある。弁護士や税理士が知恵を絞って考案した手法が使われていて、違法とはなかなか言いづらい。

 でも、これが横行すれば、国家の財政が成り立たなくなってしまう。イギリスやロシアも参加する国際会議で各国は、こうした「乱用的な租税回避に対抗していこう」と誓い合っている。アメリカのオバマ大統領は記者会見でパナマ文書の報道に触れて、「その多くは適法だが、しかし、それこそが問題だ」「金持ちと大企業だけが利用できる税の抜け穴がある。中流家庭はそれを使えず、その分の負担を強いられている」と述べている。

 ヨーロッパを中心に多くの人が怒っているのは、タックスヘイブンが巧妙な税逃れの道具の一つになっている、という実情が広く知られてきたからだ。

 世界の金持ちがタックスヘイブンに持っている金融資産は3千兆円前後に上るとの見積もりがあり、これはけっして小さな問題ではない。

 日本も含め世界の国々は、国境を超えて連帯し、タックスヘイブンの問題をただす方向で動かざるを得ないだろう。(解説・奥山俊宏/朝日新聞編集委員、ICIJメンバー)

※月刊ジュニアエラ 2016年7月号より

ジュニアエラ 2016年 07 月号 [雑誌]

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AERA dot.編集部
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