今は野球部で活躍している男子生徒は私に、転校した中学校で「自分はよそ者」だからと気兼ねし、「昼休みに校庭で遊び回る地元の子たちを教室からいつも眺めていた」と話してくれた。

 自分が生まれ育ったふるさとは、誰にとっても特別な場所だよね。ふたば未来学園高校に入学した子たちの多くは、だから戻ってきたんだ。原発事故の後、どこに避難していたかもわからなかった友達と、この学校の入学試験の日に、やっと会うことができて喜んだ子もたくさんいた。

 生徒の半数は、学校から歩いて約10分の場所にある寮で暮らしている。原発事故から5年が過ぎても、まだ自宅に戻れない子が大勢いるからなんだ。

 双葉郡には、八つの町と村がある。そのうち、ふたば未来学園高校がある広野町と、楢葉町は全域で住民が戻れるようになったけど、ほかの町村は放射線量が高い場所があったから、全域や一部に国の「避難指示」が出たままなんだ。「自宅にはまだ戻れないけど、思い出がいっぱい残っているふるさとに近い高校に、せめて通いたかった」と入学した子もいる。

 学校には「社会起業部」という変わった部があるんだ。「住民があまり戻らない被災地をにぎやかにしていきたい」と、昨年の地元の夏祭りに綿あめの模擬店を出し、住民たちに喜ばれていた。

 4月には、新しい1年生が入ってくる。生徒たちがどう成長していくのか、楽しみだね。

(岡本進・朝日新聞いわき支局長)

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AERA dot.編集部
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