【Vol.11】被災者ケアと支援者サポートで災害時のこころに寄り添う |AERA dot. (アエラドット)

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大規模な災害が度重なる中、被災者のメンタルケアが重要視されています。災害時における応急処置の確立や、精神医療従事者らへのサポートなどに取り組んできた池田美樹准教授に、「こころのケア体制」づくりについて聞きました(聞き手:桜美林大学 畑山浩昭学長)。

【Vol.11】被災者ケアと支援者サポートで災害時のこころに寄り添う


災害時における
「心理社会的」な支援に取り組む

畑山:池田先生は、2011年に起きた「東日本大震災」や、16年の「熊本地震」の際に現地へ入るなど、こころのケアに関するご活動を続けていらっしゃいますね。そもそも、どういう経緯でメンタルヘルスの分野に?

池田:文部科学省によって「スクールカウンセラー」という制度が事業化した90年代後半、東京都内の小・中学校の現場で、児童・生徒を対象とした支援に携わっていました。その時、家庭環境の問題や、保護者が精神疾患を抱えていることで、十分なケアのできない例を見てきました。お子さん自身も、まれに精神疾患を持っている例もあります。そうなると、通常の心理カウンセリングだけではなく、医療分野につなぐ必要があります。そのため、総合病院に勤務しようと考え、武蔵野赤十字病院に移りました。

畑山:お仕事のかたわら、大学院に戻って博士課程も取得されたのですね。

池田:目の前にいる人への支援はとても大事ですが、いっぽうで、理論的、かつエビデンスのある治療を提供することも必要です。これまで自分の実践してきたことを研究としてまとめ、他の方に伝えていく社会的役割を担いたいと考えたんです。

畑山:現在の研究対象である「災害時のこころのケア」は、赤十字病院での臨床経験をもとにされているのですか。

池田:そうです。ちょうど私が病院に移った2000年は、災害時の「サイコソーシャル・サポート」を日本でも展開しようというムーブメントが起こった時期でした。「サイコソーシャル」とは、日本語で「心理社会的」と訳されています。災害など大きな出来事が起こった時には、誰もがストレスを受けますよね。そこから日常生活に戻っていくにあたっては、時間の経過が必要ですし、社会的な生活が安定することで回復していきます。自分たちの力で回復していく過程を支えるものが、「心理社会的な支援」となります。

被災地で見えた問題点から
ケアの体制づくりをめざす

畑山:実際に、「3.11」の時、先生はどんなご活動を?

池田:被災地では先に支援に入っていた医療救護班からの報告でも、ケガや病気だけでなく、心のケアが必要と考えられていました。赤十字では看護師を中心に、被災者に対し心理社会的なサポートを行う「こころのケアチーム」を結成しましたが、支援に関わった関係者から「はたして、このサポート方法で良いのか」という、不安・戸惑いの声を多々聞きました。そこで、私は臨床心理士として被災者に関わるかたわら、支援者のコンサルテーション的な役割も務めました。支援に区切りがついた後、支援に関わった関係者を中心に「こころのケア体制」について、検討し、整えていくことになりました。

畑山:そうした教訓があったのですね。他には何か大変なことがありましたか。

池田:精神疾患を抱える人がトラウマ的な出来事を体験すると、症状が悪化・再燃することがあります。治療中の人は、手持ちの薬がなくなり、症状が悪化する問題がありました。また、多くの方々がご家族やお知り合いを亡くす体験をしています。「喪失」に対する反応で、意欲の低下、孤立感を深める方々が多くいらっしゃいました。

「3.11」では、精神科医療機関へ支援が行き届かず、孤立する例がありました。自力で病院から避難するなかで、命を失った方が十数人いらしたんです。これは看過できない。精神科領域へも災害時に支援が行き届くように、厚生労働省が国の事業として「災害派遣精神医療チーム(DPAT、Disaster Psychiatric Assistance Team)」の体制をつくることになり、私もこれに関わりました。

畑山:なるほど。日本は災害大国ですが、あらかじめ災害が起こることを想定し、予備的なトレーニングもされているのでしょうか。

池田:「心理的応急処置(PFA、Psychological First Aid)」と呼ばれる応急対応の実践・普及に努めています。精神や心理の専門家だけでなく、すべての支援者が「PFA」を知り、被災者が必要とするものに迅速にアクセスできるように体制を整えているところです。「衣食住」が必要であれば、それを提供するように、家族や地域の人との結びつきが必要であれば、その場を提供する。特別な福祉的・医療的支援が必要であれば、そちらにつなぐ。このこうした支援の全体的な調整、連携を担うものです。

また、災害支援は一定期間、さまざまな機関が行います。そこで、「誰が(Who)、いつ(When)、どこで(Where)、何を(What)しているのか」を明確化するためのツール「4Ws」(通称:つなぎマップ)の研究をしています。そして、「支援者を支援する」という観点から、支援者のメンタルヘルスにはどんなことが関わっているかを共同研究しています。

東日本大震災当時、支援に入った岩手県釜石市を、2019年に大学院生たちと訪問。同市の職員や保健師と再会を果たした

刊行に協力した『人道行動における子どもの保護の最低基準』(左)は、紛争や自然災害などの緊急支援に当たる関係者が順守すべき国際基準の日本語版。共著『こころに寄り添う災害支援』(右、金剛出版)は、災害時における心理的支援について、具体的なケースを交えながら多角的にまとめた一冊

日常のストレスも
対処法について発信を

畑山:ところで、コロナ禍も一つの「災害」です。通学できない間に、学生はさまざまな思いを抱えていたでしょうね。

池田:ちょうど来年度からゼミに入る学生さんと話す機会があり、「入学後、友達と直接話す機会がほとんどなく、勉強も独りで、孤独を感じた」「今度ゼミに入った時、グループで何かをするのが楽しみ」という声を聞きました。

畑山:そうやって自分たちが感じたことをベースに、「今度は他者を支援したい」と考える学生が出てくるかもしれませんね。それにしても、「心理学」というのは、じつに多種多様。池田先生は、どういった分野に軸足を置かれているのですか。

池田:「認知行動療法」という、歴史の比較的浅い分野です。理論モデル、および実践の効果検証において多数のエビデンスが示されており、近年注目されています。疾病・心理的な問題を抱える人だけではなく、健康な人にも、対人関係の問題、睡眠や運動など健康に関わる問題など、さまざまな人や場面に活用できると考えています。

研究や授業の他では、コロナ禍で中断していますが、桜美林大学臨床心理センター主催の地域公開講座「子育て支援講座」を担当してきました。今後は「ストレスとのつき合い方」など、一般の人が日常で実践できることを発信していきたいですね。そうした活動を、学生さんと一緒に企画できたらいいなと思っています。

畑山:最後に、ずっと伺いたかったことがありまして……。こころのケアを必要とする人たちの悩みを聞き続けて、ご自身のメンタルは、どう維持しているのですか。僕などは、話をずっと聞き続けていたら、そのうち滅入ってしまいそうです。

池田:相手の気持ちに寄り添ういっぽう、「相手の気持ちは相手のもの」という線引きはつくります。あとは「ストレスマネジメント」。抱え込まないように、気晴らしをするなど、力が抜けるような時間を持つようにしています。5、6年前に始めたランニングは、1人でもできるし、時間を選ばず、好きなペースをつくれる。ひじょうに自由度が高いんです。じつは、桜美林大学のキャンパスがある町田市で開催されたハーフマラソン「武相マラソン」に出て、表彰台に乗ったこともあります。

畑山:やっぱりランニングは、こころの健康にも良いんだ。専門家が言うんだから間違いない!

町田市内を快走した武相マラソン(写真提供:武相マラソン大会)

池田美樹

桜美林大学 リベラルアーツ学群 准教授

早稲田大学人間科学研究科健康科学専攻修士課程修了(人間科学)、早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得満期退学。東京都足立区福祉部障害児保育巡回指導講師・発達支援委員会委員、東京都公立小・中学校スクールカウンセラー、武蔵野赤十字病院精神科臨床心理係長を経て、2016年、桜美林大学大学院臨床心理学専攻リベラルアーツ学群・大学院心理学研究科講師。2019年、現職に。共著に『こころに寄り添う災害支援』(金剛出版)、『災害看護 心得ておきたい基本的な知識』(南山堂)など

文:加賀直樹 写真:今村拓馬

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