【Vol.14】広がる空の世界の可能性。ニーズに対応したプロフェッショナルを養成/石川秀和教授

父の勧めで防衛大学校へ進学
希望を叶えて空の世界に

畑山:防衛大学校を卒業後、航空自衛隊でパイロットとして勤めていらっしゃった石川先生。その後も、航空をめぐるさまざまな分野で活躍され、桜美林大学に。そもそもなぜ、防衛大学校に進学しようと思うに至ったのですか。

石川:私の世代は、親が戦争に行っていた時代です。父も、海軍の「特攻隊」の生き残りと聞いていました。子どもの頃から勧められ、進学の選択肢として、防衛大学校がありました。

畑山:お父さんの影響があったのですね。個人的な話ですが、僕は鹿児島県鹿屋市にある高校を卒業しました。鹿屋には海上自衛隊の航空基地があるうえ、県内には、何と言っても太平洋戦争期、特攻隊員が飛び立った知覧という場所があります。国を護る、という精神的土壌の培われる土地と言えるでしょう。

石川:私の大学同期にも九州出身者が多くいまして、防衛大学校の校内では九州弁をよく聞いた記憶があります。1年生の時点では、まだ「陸・海・空」のいずれに進むか決まっていません。私の時代は希望が通るのはたいへん厳しく、1学年500人が約30人ずつに分けられた班の中で、成績順に上から5人ごとに分けられ、それぞれのグループ内で「空1人、海1人、陸3人」が決められていくんです。「空」に行きたいという希望を叶えるには、グループ上位にいないと。私はその第1グループ中で2番目だったのですが、1番だった同期が進路先を迷っていたものですから、すかさず「おまえは海に行け!」と(笑)。説得したおかげで私の希望が叶いました。

畑山:防衛大学校を卒業後は、パイロット養成課程での日々が始まったのですね。さぞかし訓練が厳しかったのでは。

石川:私の実感としては皆さんが想像するほどではなかったです。直接指導してくださった先輩教官は、皆さん紳士的な方でした。戦闘機・輸送機の2択のうち、私は最終的に輸送機に進みました。その後は、埼玉県の航空自衛隊入間基地をベースに、輸送機のパイロットを続けました。防衛庁(当時)には約13年在籍しました。

 

パイロットから航空従事者試験官、操縦教官へ
あらゆるステージを経験

畑山:自衛隊から運輸省(当時)の航空局に移ってからは、パイロットのライセンス試験を行う試験官に従事されたそうで。どのような仕事だったのですか。

石川:運輸省には航空従事者試験官になることを前提に移ったのですが、その時私には操縦教員の資格がありませんでした。そのため、まず運輸省航空大学校(当時)に移ってその資格を取り、操縦教官を2年間務めました。その後、航空局の航空従事者試験官になりました。車の教習所の試験官と同様に、受験者の隣に乗ってフライトし、その申請ライセンスの合否判定を行う仕事でした。

私は軽量の「グライダー」から当時世界最大の旅客機「ボーイング747」までのライセンス試験を担当していました。エアラインの方は皆さん、社内の訓練施設できちっと訓練して技量管理されていますし同じプロ仲間でしたので合否判定にさほど苦労はありませんでした。いっぽう、自家用操縦士の試験に関しては、いろいろな職業の方が受験されますし試験の場所も全国各地に及びますので、いくつか今も忘れられない経験があります。

米国ワシントン州モーゼスレイクのJAL訓練所において、ボーイング747のライセンスを取得した際の一枚。「世界最大(当時)の旅客機のライセンスを取得できて、充実した思いがありました」
米国ワシントン州モーゼスレイクのJAL訓練所において、ボーイング747のライセンスを取得した際の一枚。「世界最大(当時)の旅客機のライセンスを取得できて、充実した思いがありました」

畑山:ぜひ伺いたい。

石川:ある時、冬場の気流の悪いところで試験したところ、山岳波による上昇気流が強すぎて、グライダーが下降できずにどんどん上昇してしまったんです。受験者がどうにもコントロールできず着陸地点に向かって降下できなくなってしまい、急きょ、私が代わりに操縦桿を握りました。試験官としてグライダーのライセンスを持っているとは言え、私だって普段からグライダーを乗り回しているわけではありません。あの時は本当に内心焦りました。しかし受験者にはそんなそぶりは見せられなかった……。

ただ、自家用操縦士の方々の試験を通じ、新しい発見を多くさせてもらいました。フライトに対する価値観の違い、フライトを楽しむという発想が、私自身のプロを前提として育ってきた環境とはまったく異なりましたから。

それから、エアライン機長認定を行う運航審査官、航空施設や飛行方式を検査する飛行検査官を経由して、最後に再び航空大学校に移って操縦教官を務めてまいりました。

畑山:「航空」のありとあらゆるカテゴリーを巡ってきて、着々と経験を積んでこられたのですね。桜美林大学の着任当時は、どんな様子でしたか。

石川:当時の桜美林大学の態勢は、「ビジネスマネジメント(BM)学群」の中に、パイロットを養成する「フライト・オペレーションコース」がありました。同コースの学生はまず、「桜美林大学フライト・トレーニングセンター(FTC)」(東京都多摩市)で、航空の基本を学び、2年次秋から米国・アリゾナ州にある大学提携の訓練施設で、英語による座学と実機飛行訓練に入ります。私も米国に何度も出向いては、フライトトレーニングの根幹について、日米の教官間で話し合いを続け、また本学学生に対して訓練に関するアドバイスを行いました。

訓練カウンセリングのために滞在した米国アリゾナ州フェニックスのアパートメントで、学生に誕生日を祝ってもらった思い出も
訓練カウンセリングのために滞在した米国アリゾナ州フェニックスのアパートメントで、学生に誕生日を祝ってもらった思い出も

畑山:石川先生たちのご尽力が実って、2020年4月に新設された「航空・マネジメント学群」では、BM学群から移設された「パイロット」のほか、「航空管制」「整備管理」「空港マネジメント」という4つの学びを柱に、航空のスペシャリストを育成しています。石川先生は2022年、学群長に就任されました。

石川:航空・マネジメント学群の1期生は今、3年生です(2022年現在)。皆、順調に育ってきてくれています。3年生の秋学期からは、いよいよ就職活動が始まります。管制官に関しては、航空保安大学校の受験準備も始まります。キャリア開発も視野に入れつつ、教員一同、団結しています。「パイロット」以外の3分野は私たちにとっては未経験ですが、各分野からそれぞれ豊富な実務経験を持つエキスパートの先生方が集まっています。どの先生も幅広いネットワークを持っていて、高い将来性を感じています。

高い専門性と職業意識を兼ね備えた
人材育成をめざして

畑山:今、どの分野に関しても、人手不足なのだそうですね。

石川:その通りです。パイロットだけでなく航空局の管制官にも定年退職者が多く出はじめています。そのぶんを補充していくという意味で大きなニーズがあります。整備管理にしても同様で、特に「整備管理コース」の中には「ディスパッチャー(運航管理者)」といわれる職種をめざす学生も含まれますが、航空各社ではこの人員が不足し自社で養成していかなければならない状況にあります。そこで、「航空のことを知っている桜美林の学生に来てほしい」との声をよく耳にします。「空港マネジメント」も同様で、空港民営化が全国で進み、航空局の職員が引き揚げる中、航空の基本・基礎を知る学生に、空港職員として来てほしいとのニーズがとても大きくなってきています。

畑山:航空・マネジメント学群の先生方は、本当にキビキビしている。考えてみれば、当然のことですね。人の命を守るため、日々の教育を通じて責任感を持って、プロフェッショナルの気持ちを持っていないと、ともすれば一大事に繋がりかねない。

石川:まさにそうですね。「ハッピーフライト」という邦画をご存じですか。お客様を搭乗口までご案内する任務に就くエアライン職員は、つねに定時出発のため空港内を走り回っているし、ドライバー1本を紛失してしまった整備士は、仲間と共に全員で夜を徹して探し出します。たとえたった1本の紛失でも、それが機体可動部に引っかかれば操縦に悪影響を及ぼします。万が一、飛行中に落下でもすれば、それこそ甚大な被害を出しかねません。パイロットだけでなく、整備士も同様に、自分・他人の双方に厳しいところがありますね。キャビンアテンダントも普段はにこやかにお客様に接し充実したサービスを提供していますが、その正体は緊急時にお客様の身を守る役目を持つ保安要員ですし……。

畑山:航空・マネジメント学群は、どのコースから飛び立っても、高度な専門性と、英語力を駆使しながら、充実した航空人としての人生を送ることになりそうです。学群の今後の展望は。

石川:将来を見据えてみますと、航空界そのものがかなり変わってくるでしょう。なんといってもIT化の波は大きいですね。それを既に一部取り入れ、たとえば操縦教育の分野では、「VR(バーチャル・リアリティ)」を採用しています。航空機の外部点検を実際の飛行訓練前に実施します。学生たちが将来、アリゾナで操縦する訓練機がバーチャル上で眼前に現れます。まずは外部点検から始めて、例えば翼の下部に潜るように身体を動かせば、機体の下の部分もリアルに映り、オイルが漏れていないかなど点検のポイントを細かく教えられます。

また、航空界の最新トピックは「無人航空機」。改正航空法が施行され、ドローンの飛行に関し規制緩和が行われました。「有人ドローン」の計画も世界的に進行中です。「航空」と名のつく学群ですので、そうした新しい分野も集約して、将来採り入れていきたいと思っています。

畑山:学群では2023年春、新教室棟が誕生しますね。

石川:従前のような閉じられた空間をなるべく減らし、仕切りを設けない「オープンラボ」が新設されます。学生同士、また学生と教員のコミュニケーションの場となる、自由な空間が生まれる予定です。専攻演習やゼミなども、その空間で本格的に始動する予定です。学群1期生のゼミは、今秋から始まりますが、ゼミは、たくさんの思い出ができる意義深いものです。新しい校舎で実施できることを、今から心待ちにしているところです。

 

石川秀和

桜美林大学 航空・マネジメント学群 学群長

1978年、防衛大学校理工学部電気工学科卒業。同年~1990年、防衛庁(当時)航空自衛隊で入間基地(埼玉県)をベースに輸送機パイロットを務める。1990~92年、運輸省(当時)の航空大学校で操縦教官室専任講師。1992~2011年、国土交通省の航空局の航空従事者試験官、運航審査官、飛行検査官を歴任。2011~14年、独立行政法人の航空大学校で操縦教官室教授、2014~16年、同大学校で教頭を務める。2016年、桜美林大学ビジネスマネジメント学群アビエーションマネジメント学類フライト・オペレーションコース(当時)特任教授に着任。2022年5月から現職

文:加賀直樹 写真:今村拓馬

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