【Vol.01】大学も“サブスクリプション” 桜美林ならではの価値を伝えたい/畑山浩昭学長

桜美林を卒業し、
予想外の教員生活へ

――この連載は、桜美林大学で活躍する先生たちに、畑山学長が鋭く斬り込んでいくインタビュー企画です。第1回はまず、学長ご本人にお話を伺いたいと思います。畑山学長が教職の道に進んだきっかけをお聞かせください。

故郷の鹿児島では中学、高校と洋楽のロックバンドをやっていました。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ザ・ローリング・ストーンズなどの楽曲で、ボーカルとギターを担当しているうちに、英語が好きになったんです。そこで進学したのが桜美林大学の文学部英語英米文学科でした。中学の教員だった父の影響もあり、4年次には教員採用試験を受けたのですが、残念ながら不合格。気持ちを切り替えて就職活動をして、東京の計算機会社に内定が決まりました。

ところが、卒業を目前に控えた3月に突然、鹿児島県教育委員会から実家に電話が入り、「1年間の期限付きの仕事があるけれど、どうですか?」。応対した父が「ぜひ行きます!」と私の承諾もなく勝手に回答してしまいました。内定していた会社に平謝りして実家へ戻ると、「あなたの勤務校は屋久島高校です」と言われ、再び荷物をまとめて屋久島へ引っ越すことに。いまでこそ、世界遺産で有名な島ですが、当時は本当にのどかだった。夜、公園でブランコに乗っている影を見つけて近寄ってみると、おサルさんだったなんてことも。そんな自然豊かな島で1年間、期限付きの英語教員を務めながら、再び教員採用試験に向けて勉強し、無事合格することができました。

それから県内の公立高校で6年間勤務するのですが、授業では言葉だけではなく英語圏の生活文化も教えます。留学経験がない私は、「このままで良いのか」と思ったんです。それで、海外の大学院への留学を決意しました。

米国の大学院生活で
レトリックの世界に没頭

――高校教員を辞めて、1992年に米国のノースカロライナ大学シャーロット校大学院で、再び学生生活がスタートしたわけですね。

「せっかく公務員になれたのに、辞めるのか!」と、親には残念がられたものです(笑)。大学院では、英語学、言語学、英文学の専門的な授業に、のめり込みました。修士を取り、とりわけ説得術、効果的なコミュニケーションに興味を持ちました。それから同大学のグリーンズボロ校の博士課程に移って、レトリックと批評理論の研究を深めました。レトリックは本来、心理学、言語学、社会学など総合的な学問です。自らが納得し、他人や社会を納得させて動かしていく力を感じ、非常に興味を持ちました。文学を解剖・分析し、本質を抜き出し、一つひとつ確認し突き合わせることによって、初めて筆者が描こうとしたカタチにたどり着くんです。古英語から現代英語まで、メジャー、マイナー問わず膨大な作品を読みました。

ところが、アトランタ五輪の開催時、現地を訪れた桜美林大学の当時の学長先生と再会したことで、状況が変わりました。桜美林大学では当時から、ELP(English Language Program)という英語プログラムを実施していたのですが、ネイティブの講師陣と、大学当局との仲介役となる人材が必要だった。そこで私がその役割を引き受けることになったのです。思いがけないものでしたが、1997年に日本に帰国し、専任講師から桜美林でのキャリアがスタートしました。

母校で新たなキャリアをスタート
研究と大学運営が繋がるとき

――桜美林大学では具体的にどのような職務を担当されてきたのですか。

ELPの講師陣は日本語が不得手だから、大学が考えること、大学で起きていることを英語にして伝えます。同時に、ELPがやろうとしていることを日本語で他部門に連絡する。米国、英国、オーストラリア、インド……。ネイティブだと言っても、喋っている英語はバラバラで、まさにダイバーシティーの集団でした。

当初は自身の教育研究と、大学運営という「二足のわらじ」を履いて活動していたのですが、学部の教務委員長や、国際センターのまとめ役、学長補佐を任されていき、だんだんとアドミニストレーション(管理部門)の道へと移っていったのです。その頃に「もっと経営を学んでみてはどうだ」と勧められて、2009年にマサチューセッツ工科大学経営大学院に入学し、再び米国へ。MBAを取得して帰国し、副学長を経て現職に就くことになりました。

学長の仕事というのはほとんどが他者とのコミュニケーション。経営を学んだことはもちろんですが、感情や考えを言葉にして人を動かしていくという点では、文学から学んだこともいまに活かされていますね。

――舵取りを任された桜美林大学は、2019年に新宿キャンパスが完成し、2020年には東京ひなたやまキャンパスが開設されます。さらに2021年には学園の創立100周年。かつてないドラスティックな変革の時期ですね。

「昔ながらの大学」のままでは、もう持たない。桜美林が提供できる価値がポイントになると思います。桜美林は昔からオープンで、共生の感覚を持っています。妥協しない一方で、寛容でフレキシブル。そんなメンタルの強さが、私が学生として学んでいた当時から脈々と受け継がれています。広くて、深く、強くて、明るい。そんな桜美林の美点をお伝えしたいと思います。

最近、音楽の定額サービスなどで「サブスクリプション」って言葉をよく聞くようになりましたよね。考えてみたら、大学もサブスクリプション。日々の学費に対して、授業や設備を存分に活用してもらって、学生たちに自身の成長をどう実感してもらえるかということが重要です。私たちが一緒になって、それぞれの夢や希望を実現していきたいと思います。

畑山浩昭

桜美林大学 学長

1985年、桜美林大学文学部卒業。鹿児島県立高校教諭を経て、1994年、ノースカロライナ大学シャーロット校大学院修士課程修了、修士(M.A.:文学)。2001年、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校大学院博士課程修了、博士(Ph.D.:文学)。2010年、マサチューセッツ工科大学経営大学院修士課程修了、修士(MBA:経営学)。2018年、桜美林大学学長に就任。専門はレトリック、批評理論。主な著書に「自己表現の技法」(分担執筆、実教出版)など

文:加賀直樹 写真:今村拓馬

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