高齢化は人間だけに起こるわけではない。東京は今、建物や家、道路や橋などのインフラ、上下水道やガスなどのライフライン、そして社会制度の老いに直面している。こうしたハード・ソフト両面の都市のエイジング問題を、成熟に向けて発展する好機ととらえ、「都市研究」を標榜しているのが東京都市大学だ。三木千壽学長と、景観のデザイン・研究で知られる涌井史郎特別教授が、経済成長に代わる新たな都市の魅力づくりについて語り合った。
■世界でも例を見ない東京の難題に解決法を
三木:日本は、世界にさきがけて少子高齢化が進む「課題先進国」です。なかでも戦後一気に経済成長を遂げたわが国の都市問題は複雑で幅広い。東京郊外のニュータウンは、40年以上経って人も建物も高齢化し、買い物難や福祉、健康などの問題ものしかかっています。IoTやAIなどを駆使した都市のスマートエイジング研究は、それらを総合的に解決するための取り組みです。アジアには東京に似た推移をたどる都市も多く、魅力ある未来都市へと再生させる研究は、国際的にも発信する意義があります。
涌井:今まで、都市は莫大なエネルギーを使って経済を牽引する場でした。しかし、資源の枯渇や大気汚染など、地球の限界が見え始めた今、明らかにパラダイムが変化しています。スマートエイジングという概念は、その変化への対応を意味しています。私たちは、未来からバックキャストして物事を考えなければなりません。
三木:本学では2016年に、「未来都市研究機構」を創設し、「インフラ」「環境」「情報」「生活」「健康」をテーマに研究ユニットを立ち上げました。理工学系と社会科学系の教員が共同して活動しています。例えば、交通ビッグデータや都市構造に基づき、高齢者の外出行動等を把握する「都市活動のモニタリングシステム」を開発する。そこからシニアライフの潜在需要が分析できます。また、子育て支援も東京の課題のひとつです。総合研究所の「子ども家庭福祉研究センター」は渋谷区と連携して福祉の面から都市問題に取り組んでいます。
涌井:都市大の各学部がこれまで培ってきた知見が、まさにこうした都市研究のバックボーンとなりますね。
三木:そうですね。本学は電気・建築・土木が学べる高等工科学校として創立され、都市のインフラ整備には歴史があります。武蔵工業大学となってから情報通信、環境、エネルギーの分野にも注力し、環境情報学部(当時)は1997年から。東京都市大学と改名して都市生活学部も設置しました。都市につながる学部学科が充実していたので、官公庁でも多くの卒業生が活躍しています。
■成長から成熟へ求められる「力」とは
涌井:都市には人類の約6割が暮らし、世界の人口も増え続けています。今までのように各国で経済成長を追い求めるのではなく、新たな豊かさを模索する時が来ています。生産年齢人口が減っていく日本は、「成長」よりも「成熟」を目指さなければなりません。
三木:一方、今まで享受してきた便利さを手放すことはなかなかできませんよね。どこで満足をするか、その答えは新しい技術の中にあるのかもしれません。IoT、AI、そして涌井先生の研究対象であるグリーンインフラも、これからの都市生活に欠かせないものです。
涌井:私たちの生活を脅かす気候変動は、これまでの「緩和」技術だけでは対応しきれなくなっています。日本人が昔から培ってきた「自然との共生」を見直し、その力を利用する一例がグリーンインフラです。環境改善、減災・防災、健康増進にも関わります。未来都市研究機構で進める研究のように、技術を〝社会化〟させるためには、文理融合人材や異種産業の混合が大事だと思います。学部の枠を超えて課題に取り組む都市大には、その可能性があるといえるでしょう。
三木:そこに必要なのは基礎的な実力だと思います。よく〝即戦力〟と言いますが、社会の進歩はどうなるかわからない。今もてはやされる技術・技能は、10年後には陳腐化するかもしれません。大学ではそうした目新しいものだけではなく、どんな状況に置かれても対応できる実践力を身につけるべきです。そのために本学には多様な教員たちもいる。語学力をつけ経験を積む環境も整っている。基礎を学んで社会に出て、そこで何かテーマを見つけたらまた大学に戻って学びなおすという道もあるんです。
涌井:社会に出ると違う発想が出てきますし、また勉強したくなる。必要なのは果てなき好奇心ですよね。好奇心を持った人が技術という武器を得たときに、さまざまな問題を解決する力が生まれると思います。
三木:本学の源流は、学生たちが自ら教員・学び舎を探し求めて設立した「武蔵高等工科学校」。先輩たちのその気概に学び、突拍子もない発想をかたちにするような学生を世に送り出していきたいですね。
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