アメリカの首都ワシントンに隣接するバージニア州の都市で8月12日、デモ隊同士がぶつかり合い、死傷者が出る事件が起きた。この騒乱を引き起こしたのは、白人至上主義者と呼ばれる人たちだった。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞編集委員・真鍋弘樹さんの解説を紹介しよう。
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白人至上主義者とは、アメリカにおいて「白人の優位を回復しようとする人々」をいい、クー・クラックス・クラン(KKK)という集団が有名だ。今回のデモでも「アメリカを取り戻せ」などと訴え、これに抗議する反人種差別グループと衝突。白人至上主義者側が反対派に車で突っ込み、1人が亡くなった。
最近になって活動が活発化している理由の一つは、白人の側に立って移民排斥などの主張をするトランプ氏の大統領就任だとされる。アルトライトという新興グループの代表は、「われわれは社会から認められた」とすら語っている。オバマ氏が黒人初の大統領になったことへの反発も大きい。
背景にあるのは、アメリカでの「白人の地位」の相対的低下だ。人口比率で白人は減り続け、約30年後には半数を割ると予測される。格差の拡大で不安や不満が広がり、白人であることを精神的よりどころにする人も増えている。記者が以前に取材をした人物は、「黒人などの少数派が優遇され、白人こそが差別されている」と訴えていた。
黒人奴隷と人種隔離の負の歴史を抱えるアメリカ社会は、人種差別に極めて厳しい目を向けてきた。今回の事件でも、「両者に非がある」と明確な批判を避けたトランプ氏には、各界から強い批判が寄せられた。
そもそもアメリカは移民が集まってできた国であり、多様性を発展の原動力としている。歴史の流れを逆転させるような白人至上主義は、この国を根底から揺るがしかねない。(解説/朝日新聞編集委員・真鍋弘樹)
【メモ】
アメリカでは19世紀半ばまで黒人の奴隷が合法的に認められていた。リンカーン大統領による1863年の奴隷解放宣言後も、南部を中心に施設や交通機関での人種隔離政策が続き、KKKによる黒人殺害も多発。キング牧師らの運動の末、1964年に公民権法が成立し、ようやく制度的な人種差別が終結した。
※月刊ジュニアエラ 2017年11月号より