その安心感があるから、「地獄っていうこわい場所はあるけれど、自分は大丈夫」と思えるのかもしれません。

 私の息子は、幼い頃あんなにこわがっていた『じごくのそうべえ』を、3歳になる自分の息子に読み聞かせています。地獄の物語ではありますが、息子にとってはあたたかな記憶に置き換えられているようです。孫はもちろん、怖がっています(笑)。

「鬼」で子どもを動かせるのは4~5歳まで

 子どもが素直に鬼を怖がってくれるのは、一般的には4~5歳ごろまでとされています。この時期、子どもの精神面は急激に発達します。なかでも大きな変化は、リアリティとイマジネーションを分ける能力が身につくことです。

 年少さんまでは節分の鬼を泣いて怖がっていた子も、年中さんくらいで「鬼って〇〇先生なんじゃないの?」と気づくようになるのです。

 この頃から、鬼の効果は急激に薄れていきます。期間限定の怖さなのです。

 一方で、「見えないもの」「存在しないもの」への畏敬の念が育っていく子もいます。

 私たちも、ご先祖さまに手を合わせたり、神社にお参りしたりすることで心を落ち着かせることがありますよね。そういう「見えないもの」を大切にする心も、日本人らしさかもしれません。

 なかには「鬼的なもの」や「もののけ」と自然を融合させてとらえ、郷土に根差した文化や伝統、地域の風景を守っていこうと考える人もいます。

 ですから、単純に「鬼は怖い。だから言うことを聞きなさい」ではなく、もう少し深い部分で「鬼的なもの」との出会いがあるといいな、と私は思います。

 幸い、絵本にはいろんな鬼が登場します。せっかくですから、やさしい鬼、かわいそうな鬼、かわいい鬼、頼もしい鬼……、そんないろんな鬼たちとの出会いを増やしてみてはいかがでしょうか。

 子どもの心に小さな種をまくきっかけになるかもしれません。

(取材・文/神 素子)

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