地方の高学歴父が、自分の成功体験を盲信する理由

 A君のお父さんのように、自身の教育観を頑なに変えない父親は少なくないそうです。そして、周りがどれだけ現状を伝えたとしても、それを受け入れる姿勢はほとんどみられないといいます。

「お父さんは、子どもの可能性もっと信じてあげてください。今の可能性だけでなく、遠い未来の可能性も。『中学受験に成功しなければ大変なことになる』と思う方が多いですが、そんなことはありません。たとえ第一志望が不合格になったとしても、学習の過程で得た学びはどこかで生きてきます。

 それは大学受験かもしれないし、社会人になってからもしれません。遠い未来を考えながら、子どもと付き合ってみてください。勉強の中身を教えるのでなく、子どもの気持ちに寄り添う付き合い方を。欠点の指摘や修正でなく、長所を探して伸ばそうとすることが大切です」

 親として理想的な関わりをするために、西村先生は以下の3つをポイントに挙げます。

(1)現代の受験情報を率先して知ること。中学受験のルールや偏差値の考え方をはじめ、中高一貫校特有の学習環境や大学受験サポートなど、自身の経験では知り得ない情報を積極的に知ることで、子どもへの関わり方も柔軟になるといいます。

(2)自分の大学受験の成功経験を持ち込まないこと。父親世代の学習といえば、“詰め込み学習”。暗記や大量の演習問題で合格を勝ち取った経験に自負を持っています。しかし、中学受験をするのは小学生。小学生と高校生では脳の発達段階が異なります。中学受験では、暗記や大量の演習を中心とした学習だと効果が現れないケースは珍しくないようです。一方、高校生の学習では、それまでに収納してきた知識と新しい知識が自然とつながるので、暗記や演習での効果が出やすいといいます。

(3)子どもが楽しく学べる方法を考えること。小学生の場合、もともと収納された知識が乏しく、新しい知識と結びつけるものが遊びや生活体験になります。ブランコで物理の原理を体感させるなど、遊びに工夫を凝らすことで高い学習効果が得られることを、親が理解する必要があります。

 3番目の点については、中学受験を控えている5、6年生だと、遊びを通じた学習をしている余裕がない家庭も多いでしょう。どうやって楽しませるのでしょうか。

「理解した瞬間に得られる喜びや楽しさを思い出させるのです。ハードな勉強で締め付けられてきた子は、普通なら持てるはずの『わかった』という楽しさを感じられなくなっています。理解したときに『よくわかったね』と認めてあげることで、楽しさを感じやすくなるでしょう」(西村先生)

 子どもは親と別人格であり、思考も能力も適性も異なります。自分の経験則ではなく、子どもに寄り添うことを優先してみることが、親子の信頼関係を強めることにつながるのでしょう。

(取材・文/東山令)

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