偏差値が高いことだけが良しとされる社会では、規格通りの人間像が求められ、変革する社会に対応できる大人を育てにくいでしょう。近年、教育の現場や社会で多様性やダイバーシティーを推進する動きが高まっているのもそのためです。理想とするのは、どんな子どももそれぞれの場所で人と支え合い、自己肯定感を高めていける社会。中学受験は強烈な体験なので、そこで染みついてしまう価値観はたしかにあると思います。だからこそ、本質を見失わない声がけが必要です。

■子どもが輝ける学校選びが親の役割

「中学受験は親の受験」と言われます。仮にそうならば、その目的は「難関校に入れること」ではなく、「子どもの個性や能力を生かせる学校を探すこと」ではないでしょうか。そのためには学校行事や部活動、生徒の様子、校風、施設など、数字に表れないソフト面にアンテナを張り巡らせてほしい。できるだけ校舎に足を運んで、その雰囲気を体感するのがいいと思います。

 私は、子どもの受験の際はたくさんの学校に足を運びました。それでも見足りなかったくらい。忙しい日々のなかで大変な作業ではありますが、そこは親の頑張りどころ。オンライン説明会を活用するのもいいでしょう。調べてみると、どの学校にも新しい発見やおもしろさがあるものです。そして、それをたくさん子どもに伝えてあげてください。「この学校に行きたい!」と強く思うことは大切ですが、第1志望校に合格できるとは限らない。また、第1志望校がその子にとってベストなのかも本当はわからないのです。だからこそ、最終的にご縁があった学校を自分の道だと思えるよう、親子で想像力を持つこと、視野を広げておくことが大切だと思います。

 中学受験というレールに乗ると、二度と引き返せないような追い詰められた気持ちになりがちです。そんなときにはふっと肩の力を抜いて、車窓を楽しんでみてほしいと思います。行き先はひとつではない。行路を変えてもいいし、途中下車してもいい。それぞれの場所にきっと、子どもが輝ける美しい景色が広がっているはずです。

朝比奈あすか/小説家
慶應義塾大学卒業後、会社員を経て、2006年に群像新人文学賞受賞作の『憂鬱なハスビーン』(講談社)で作家デビュー。以降、働く女性や子ども同士の関係を題材にした小説をはじめ、多数の作品を執筆。『君たちは今が世界』(KADOKAWA)と『人間タワー』(文藝春秋)は、2020年の中学受験において男子難関校を含む10校以上で出題されるなど、国語入試頻出作家としても注目されている。

(堀 美希)

※AERAムック『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2023』より

偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び 2023 (AERAムック)

朝日新聞出版

偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び 2023 (AERAムック)
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