2019年のノーベル化学賞受賞者となったのは、リチウムイオン電池を開発した旭化成名誉フェローの吉野彰さん。日本人として27人目(アメリカ国籍を取得した人を含む)のノーベル賞受賞者となった吉野さんが、子どもたちに向けたメッセージを語ってくれた。小中学生向けのニュース月刊誌「ジュニアエラ」12月号に掲載された記事を紹介する。

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――小学生のころはどんな子どもでしたか?

吉野 自然のなかでセミやトンボ、カブトムシを追いかける、ごく普通の子どもでした。転機になったのは、小学校4年生のとき、女性の担任の先生から薦められた『ロウソクの科学』です。「ロウソクはなぜ芯が必要か」「なぜ炎は黄色いのか」など、「おもしろいなあ」と思いながら読みました。その本を入り口に、化学やものづくりに興味を持ったのです。

―─そのころから、夢は研究者でしたか?

吉野 はっきりそう思っていたわけではありません。中学や高校でいちばん熱中したのは水泳で、学校のプールでひたすら泳いでいました。そんななかでも化学への興味は変わらず持ち続け、自然と理科が得意科目になったので、大学は工学部に進み、大学院修了後は旭化成に入って研究職に就きました。

―─大学時代から電池の研究をしていたのですか?

吉野 いいえ。入社してから3つの研究テーマに失敗し、4つ目に取り組んだのがリチウムイオン電池です。「きっと世の中の役に立つ」と思いました。どんな材料を電極に使えば安全な電池になるか、根気強く研究を続けてようやく、「これだ!」という材料と出合いました。最初はなかなか売れませんでしたが、あるとき突然、売れ始め、今では、パソコン、スマホ、電気自動車など、あらゆるところに使われています。研究していた当時、こんな未来は99パーセント見えていませんでした。でも、1パーセントくらい、においは感じていたと思います(笑)。

―─「ジュニアエラ」読者へのメッセージをお願いします。

吉野 小中学生のうちに大切なのは、興味を持てるものを見つけることです。そのために、いろいろなことを試し、刺激を受けてください。ボールを蹴る楽しさにひかれ、Jリーガーを目指す人もいるでしょう。私の場合は、それが『ロウソクの科学』でした。

 もしも失敗が続いたとしても、焦らないでください。ノーベル賞受賞者がそのテーマの研究を始めた年齢は平均37.1歳。私も33歳のときでした。いくら科学が発展しても、世の中にはわからないことがまだたくさんあります。いつかきっと、「これは!」というテーマが見つかります。それまでは、たくさん失敗をしてください。失敗から学んだ経験が、きっとあなたを成長させ、困難を乗り越える力になりますから。

【吉野 彰(よしの・あきら)】
 1948年、大阪府吹田市生まれ。府立北野高校から京都大学工学部に進む。同大大学院を経て、旭化成工業(現旭化成)に入社。電池材料事業開発室長などを務める。2017年から旭化成名誉フェロー、名城大学大学院理工学研究科教授。

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上田俊英
上田俊英

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