多様化する入試制度やキャリア形成に対応するために、高校の進路選択では情報収集が要となる。求める情報のキャッチアップはどのように行っているのか。どのようなツールが求められているのか。「AERAサポーター高校」に参加する4校の進路指導担当教員が、現場のリアルを語り合う。
【「AERAサポーター高校」とは?】
「AERA」とともに様々な企画に取り組む高校。第2期(2023年度)は全国から70校以上が参加中(詳しくは本座談会企画最下部へ)。
■多様化する入試・キャリア形成の情報とツール
木村恵子(AERA編集長):進学や就職、キャリア形成を考える時、情報収集については先生方は生徒のみなさんにどのような指導を行っているのでしょうか。
松永太志さん(日本福祉大学付属高等学校):生徒たちは、やはりインターネットで調べる機会が多くなりました。勉強や課外活動などで忙しく、web検索なら時間のない中でも気軽にたくさんの情報を得られることに魅力を感じているようですね。しかし、インターネットでは興味ある事柄がAIに選別、誘導され、似たような情報ばかりになりがちです。
各大学のホームページや大学受験用のポータルサイトを活用するとともに、その大学がどのようなことに取り組んでいるのか、どんな研究室があるのかなど、より深い情報を知ってもらうために、教員側からは新聞や雑誌の記事など紙媒体の情報を紹介することも多いですね。「AERAサポーター高校」になって紹介していただいた書籍の『日本の「学歴」』(朝日新聞出版)は、どの大学がどの業界業種に多くの人材を輩出しているかが分かりやすくまとめられており、図書室の生徒の目につきやすい場所に置くようにしています。
坂田充範さん(兵庫県立加古川東高等学校):受験しようと思っている大学には、どの程度の科学研究費助成事業があるか、研究論文数はどうか、教員一人当たりの学生数は何人かといった切り口から具体的な情報に注目すると、自ずと大学の中身が分かってくると生徒たちに話しています。こうした情報を参考に、選択に迷っていた生徒が進学先を決定することもあります。
面白いところでは、各大学が教育・研究活動を紹介する広報誌からも踏み込んだ情報を得ることができます。例えば、東京大学の広報誌「淡青」(たんせい)46号(2023年3月)では「GX入門」と題して、一つのテーマについて、学内の多彩な先生方が専門的立場や視点から言及されているのですが、興味深く読み進めるうちに、どのような研究をされているのかが分かってきます。本校の進路指導資料室には様々な大学の広報誌もそろえてあり、生徒自身でも調べられるよう案内しています。
二田貴広さん(奈良女子大学附属中等教育学校):進路指導では大学・大学院のホームページをよく参照します。進路指導部の教員が、実際に大学に足を運ぶことにも力を入れており、大学説明会、講演会などの機会に直接お話を聞かせていただきます。各大学の教育・研究活動、企業との連携、就職支援などについて、こちらから質問できるのでとても有意義で重要な情報収集の場だと考えています。他には、「東洋経済ACADEMIC」、リクルート進学総研の「キャリアガイダンス」、ベネッセの「VIEW next」や「ハイスクールオンライン」など、冊子やwebなども活用しています。
青木潤士さん(星野高等学校):これまでにないスピードで世界が変化する中で、SDGs、グローバル教育、AI・データサイエンスなど新しい情報があふれ、接する機会が多くなっていると感じます。生徒たちが自分ごととして捉え、どのようにキャリア形成につなげていけるか。従来の紙媒体やインターネットなど、様々な媒体からの情報を参考に検討を続けているところです。
木村(AERA):AERAでは昨年度、「AERAサポーター高校」のみなさまに「AI・データサイエンス」「グローバル教育」「SDGs」をテーマにした「大学×企業 スペシャル座談会」(※1)の小冊子をお届けしました。教育情報としていかがでしたか。
※1 “今、考えるべき”テーマについて、その分野に強い大学と企業が語り合う座談会企画
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坂田(加古川東):最も印象に残っているのはSDGsについての冊子で、繰り返し読ませていただきました。2030年の目標達成期限にはどうなっているのか、インセンティブも罰則もなく達成できるのか、法整備が必要ではないか、大学と企業もそういったところに踏み込むべきではないかなど、同僚の教員とも真剣に意見交換する機会ができました。最近は環境問題、気候変動、人権、平和などに関心を持ち、農学や水産学などの学部を志望する生徒が増えているように思います。
二田(奈良女子):小冊子を追加注文させていただき全校生徒に配りましたが、読みやすいと好評でした。読んでおしまいにならないよう、生徒みんなに自分の考えをまとめ言語化してもらうためにも感想アンケートを実施しました。言語化することで、生徒たちにどんな行動が起こるのか、そんな観点からも活用したいと思っています。「文系からもデータサイエンスへの道があることが分かりとても参考になった」という声も上がってきています。
松永(日本福祉):小冊子を読んだ生徒たちは、同じ学部でも大学によって柱となる取り組みの違いや特色があることに気づき、進路選択の参考として活用することができました。各テーマについて大学と企業の方々が共に語り合い、それぞれの立場の切り口を知ることができる特集でしたので、学びの先、社会とのつながりまで見えて、私個人としても勉強になりました。
青木(星野):AERA座談会の冊子は、社会課題に取り組む大学と企業の具体的な事例を知ることができとても参考になりました。さらに、大学生が社会課題について、どのように学び活動しているのか、社会にどうつながっていくのかというところまで踏み込んでいただくと、高校生にとって近い将来がよりリアルに感じられるようになるかと思います。今後も、こうした情報を使って生徒の視野を広げ、具体的に働きかけていきたいです。
■情報と知識が選択肢を広げる
木村(AERA):視野を広げるという観点から、高校生にはどのような情報や知識を取り入れて進路選択をしてほしいと考えますか。
二田(奈良女子):生徒だけでなく教師も視野を広げて、これから我々が暮らすちょっと先の世界や社会を知る情報を取り入れることが大事だと思います。今盛んに取り上げられているChatGPTは、少し前までは話題にもなっていませんでした。進学では教育や研究の内容についてはもちろんですが、“暮らす場所”としての大学を知ることも重要です。退学率はどうか、学業とアルバイトは両立できるかなど、キャンパスライフに直結する情報です。
坂田(加古川東):志望する大学で自分をアップデートしていけるか、その環境があるかも事前に調べておきたいですね。大学で学び進めるうちに、興味や希望が入学時と変わっていく学生は少なくありません。そうなった時に、志望する大学に柔軟な対応をしてもらえるかどうか知っておくことは大切です。
青木(星野):職業の横のつながりについても、生徒には知っておいてほしいです。例えば看護師を目指すのであれば、臨床検査、臨床工学、理学療法、管理栄養など医療系の職業にも幅があり、チーム医療というつながりを知ることは重要です。目指す進路が明確に決まっているのはいいことですが、その近くにある分野が意外に見えていないことがあります。同系統の仕事の中にも向き不向きはあります。できるだけ多くの具体的な情報と知識を取り入れて進路を選択してほしいと考えています。
松永(日本福祉):将来の仕事を見据えて進学する場合、生徒たちは目指す職業の良いイメージばかり追いがちです。実際にはそれぞれの職業、業界が抱える社会問題があり、そのことを大学が研究課題として取り組んでいて、学べるかどうか。進学先でいい面も悪い面も学んだ上で、社会に出ることが大切だと生徒には話しています。
■求められるプラスアルファの情報
木村(AERA):高校生の進路選択やキャリア形成のために、どんな情報や媒体があればより役立つと思われますか。
坂田(加古川東):探究学習(※2)で興味を持った事象が大学や学部を選ぶ動機になる生徒が増えているのですが、関連する研究論文をwebで見つけて読もうとしても、高校生にはちょっと難しいですね。もう少し高校生向けに噛み砕いた著作、論文紹介、出張講義、公開講座に繋がれるような検索システムがあるといいですね。
※2 生徒が主体的に課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析し、意見交換・協働して進めていく学習活動。教科や科目の枠を越え横断的・総合的に学ぶ「総合的な探究の時間」は2022年度から新設された高等学校の必履修科目
松永(日本福祉):ニュースを見て、興味ある社会現象を自分の進路に重ね合わせる生徒がいます。その事象について学ぶには、どの大学のどの学部のどの研究室がいいのか。ニュースでコメントされている大学の先生から紐付けて調べることもありますが、さまざまな切り口があり細分化されている学問の中から、生徒の興味にマッチするところにスムーズにたどり着けるといいですね。
二田(奈良女子):大学と企業が連携し社会課題の解決に取り組んでいる事例は数多くありますが、一般にはなかなか見えてきません。社会現象に興味を持ち進路を考える生徒には、産学連携に関する情報がとても役立つと思います。また、高校の教科にはないけれど大学の学部にある分野、例えば工学分野の学問とはどういうものかが参照できるツールがあると、進路選択の際にとても参考になると思います。
青木(星野):学びの分野の横のつながりの情報も得られるといいですね。希望する分野がおぼろげな生徒も、興味ある分野の周辺まで網羅して大学や学部を紹介するようなサイトがあれば選択の参考になります。情報系の進路は文系理系が混在している状況ですから、どちらからも職業につながる学びのルートが分かる情報ツールがあれば指導しやすくなります。
■現実と将来像とのバランスをとるには
木村(AERA):私も保護者の立場になってみると、子どもの教育について偏差値や学歴のような現実的なことと、希望する将来像との間で揺らぎが起こります。進路指導では、どのようにそのバランスをとっていますか。
二田(奈良女子):本校は比較的小さな規模で、中高6年間を通して生徒一人ひとりとじっくり話をする機会に恵まれています。何をしたいのか。どんなことに関心があるのか。同じ大学の中でも、偏差値を考えて本来の希望とは違う学部に入ったとしてやりたいことはできるのか。そんなふうに話を詰めていき、生徒本人の「気付き」につながるよう心がけています。希望と現実、それぞれの情報をできるだけ集め、個々人の事情も加味し、それを自分たちなりに解釈して、どの選択肢を選ぶかになりますね。
青木(星野):本校では1年生の早い段階からキャリア形成や目指す学問分野につながるカリキュラムを選べるようになっています。得意なこと、自分の強みを生かして学び、現実的な大学受験を見据えつつ、自ら希望する将来像をかなえる。そんな選択をしてもらえるよう指導を進めています。
松永(日本福祉):大学付属の本校には、学校推薦で入学し、そのまま推薦で大学に進み、社会福祉や保育、医療系の道に進む生徒が多い傾向にありました。しかし、入学時の15歳の時の選択が18歳になっても変わらなくていいのか、高校3年間の意味を問いたいという声が教員側から上がりました。そこで、大学での学びが視野を広げ、将来の選択肢を広げるということを積極的に生徒に伝え、揺さぶりをかけるようにしました。その結果、例えば、単に「大学で留学をしたいから」と進学先を選択していたのが、「公共経済の視点から環境問題を考えたいので、進学し留学する」というように、大学で学ぶ意味、プラスアルファを考えて答えを見つける生徒も出てきました。
坂田(加古川東):以前に比べると、自分の進路や将来像にこだわりを持つ生徒が多くなりました。探究学習で主体的に調査する機会を得て、SDGsやグローバル社会、データサイエンスなどの情報を分析し興味を持ち、自分の将来に関連づけて考える子も増えています。学校推薦型の入試でのことですが、面接担当者が偶然にも目指す分野の先生で、探究学習で学んだことや志望動機をしっかりアピールして、合格できた生徒がいました。これは理想的なケースでした。
【木村恵子の編集後記】
「AERAサポーター高校」4校の先生方から、教育現場の生の声、AERAが発信する教育情報についての率直なご意見をうかがう貴重な機会をいただきました。いかに学び、どんな仕事に就き、社会でどのような役割を果たすのか。子どもたち一人ひとりの生き方を見据えた教育が進んでいます。目まぐるしく変化する社会を生きる子どもたちに対する先生方の熱い思いと、深化し多様化する進路指導の取り組みについて知ることができました。一歩先の未来を示す情報の責務。その役割をしっかり果たしたいと、改めて意を強くしました。
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