【Vol.9】情熱と行動力が世界を動かす 生ごみあふれる途上国の風景を変えた「高倉式コンポスト」誕生秘話 |AERA dot. (アエラドット)

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「サステナビリティ」という言葉が注目を集めるずっと前から、この問題に取り組んできた人物がいる。髙倉弘二、62歳。開発途上国に技術を伝え、ごみがあふれる街の風景を変えてきた髙倉が見つめる「サステナブルな社会」とは――。

【Vol.9】情熱と行動力が世界を動かす 生ごみあふれる途上国の風景を変えた「高倉式コンポスト」誕生秘話


 髙倉弘二。彼の名前は、日本よりもアジアや中南米を中心とした開発途上国でよく知られているのかもしれない。

 今から約20年前、J-POWERグループ企業の一社員だった髙倉は、発酵菌を使って生ごみを堆肥に変える「コンポスト」を開発した。

 日本では「高倉式コンポスト」、海外では「Takakura Composting Method」や「Takakura Basket」と呼ばれ、髙倉自ら現地に赴き、日本だけでなく、アジアや中南米諸国など50以上の国々で技術指導をしながら普及させてきた。

 成果を上げた地域では街の景色を変えたとまで言われる高倉式コンポスト。効果の大きさとは対照的に、その作りは意外なほど簡素だ。

 高倉式コンポストでよく使われるのは、スーパーなどで目にするような通気性のあるカゴの内側に、フェルトや麻、段ボールなどを貼っただけのもの。だが、この簡素さこそが、高倉式コンポストが世界中で受け入れられ、使われている理由だ。

 日本では、各家庭から出る生ごみは定期的に自治体によって収集され、ごみ処理場で適切に処理されることで、街の衛生が保たれる。当然、これはごみを収集する仕組みと、大規模な焼却施設が存在し、規律正しく運営されているから成り立つことだ。

 では、開発途上国ではどうか。仕組みと施設作りには、時間とお金、人材育成も必要になり、実現できる国や地域は限られている。

 髙倉は言う。

「2004年、初めての海外技術協力で訪れたインドネシアのあるコミュニティでは、多くの家庭が、壁にクギを打って、そこに生ごみが入った袋をぶら下げていました。なぜそうしているのか聞くと、床に置くとネズミが漁るからだ、と。でも、当然ですが、どの国の人もそんなふうにごみ袋をぶら下げたり、道路に放り出したりしたいわけじゃない。ネズミは防げたとしても、臭いは出るし、虫もわきますからね。日本のようにきちんと処理してくれるなら、みんなそうしたいんです」

インドネシアで生まれた
高倉式コンポスト

 兵庫県で生まれた髙倉は大学卒業後、電子部品メーカーに就職。だが、学生時代から関心を持っていた環境の仕事に携わりたいと、1988年、環境調査や解析・評価を行うJ-POWERのグループ企業、電発環境緑化センター(現J-POWERジェネレーションサービス)に転職する。

「朝から晩まで夢中で働いた」と振り返る多忙な毎日。ところが、充実した日々を過ごしているはずの髙倉の心に、ある思いが頭をもたげてくる。

 今の仕事は本当に、環境に携わっていると言えるのか――。

 当時は、J-POWERの石炭火力発電所に関する環境保全の取り組み、具体的には薬品や機器を使って環境基準を分析する業務をメインに行っていた。だが、髙倉が本来目指していたのは、発電所内でほぼ完結するような狭い範囲ではなく、もっと地域や人、日々の生活に密着した環境問題を解決していくことだった。

 その思いを捨てきれなかった髙倉は、実現に向けて動きはじめた。北九州市にある若松環境研究所への異動願いを出したのだ。

 北九州地域はかつて国内有数の工業地帯の一つとして、日本の高度経済成長を支えてきた街だ。その代償として激しい公害にさらされた歴史もあり、北九州市では今も環境に対する取り組みが盛んに行われている。

 そうした土地柄に導かれるように移り住んだ髙倉は、水を得た魚のごとく、仕事の合間をぬって環境活動にのめり込んでいく。

 初めに参加したのは、地域の住民が3R(リデュース、リユース、リサイクル)をはじめ、環境問題を幅広く学ぶ集まりだった。

 同じ頃、自身がアレルギー体質だったこともあって、有機農法や堆肥にも関心を持ち始める。有志が集まる研究会などに参加して、生ごみを堆肥に変える「コンポスト」にも挑戦。専門家に教えを請いながら、知識と技術を磨いた。

 当時の活動は、あくまで地域に暮らす一個人としてのものだった。だが、環境の専門機関に所属し、豊富な知見を持つ人材を周りが放っておくはずもない。その活動はやがて北九州市の目にとまり、2004年、髙倉が所属する若松環境研究所にある依頼が届く。

「北九州市の姉妹都市、インドネシア・東ジャワ州のスラバヤ市で、コンポストの国際技術協力をしてほしい」

髙倉がインドネシアで実施した高倉式コンポストの説明会(上)と技術指導(下)の様子。髙倉の手元を食い入るように見つめる女性たちの眼差しに、「生ごみ問題」の切実さがうかがえる。(写真提供/髙倉弘二)

 当時のスラバヤ市は、処分場の1カ所が閉鎖されたことで街中にごみがあふれ、環境改善と都市緑化に市をあげて取り組んでいた。しかし、廃棄されるごみの半分を占め、臭いや虫、ネズミの発生源となる生ごみについてはほとんど手付かずの状態だった。

 その問題を解決するため、生ごみの堆肥化に詳しい髙倉に白羽の矢が立ったのだ。

 このとき、依頼を快く受け入れた髙倉が一つだけ決めていたことがある。それは、一過性の協力や技術の提供ではなく、自分たちが去った後も持続し、定着する技術協力を行うことだった。

 そのために髙倉は、コンポストに必要な菌や資材を日本から持ち込むのではなく、すべて現地で調達した。

 生ごみを堆肥化するためには、大きく3つのものが必要になる。生ごみを分解する菌、通気性のよい容器、そして空気。菌も容器も日本であれば簡単に手に入るが、スラバヤ市ではそうはいかない。日本ならホームセンターでも販売されているようなさまざまな菌を現地で手に入れるのは一苦労。当然、コンポスト専用の容器も売っていない。

 そこで、髙倉は現地で親しまれている発酵食品からコンポストに最適な菌を見つけだし、現地の米ぬかともみ殻に菌を混ぜたもので発酵床を作った。容器は現地のホームセンターで売っているランドリーボックスだった。

 見るからに簡素なコンポスト。だが、正しい手順で使えば、数日で悪臭を放つはずの生ごみが2日ほどで堆肥に変わる。その出来は、現地で生ごみの堆肥化を進めていたNGOの技術者が感嘆するほどだった。

 よそから持ってくるのではなく、その国の菌や資材を使って作るコンポスト。これがのちに「高倉式コンポスト」と呼ばれ、世界中で広がっていくことになる。

インドネシアにて。技術指導をサポートするNGOスタッフや住民に、日本流のカレーを振る舞う髙倉(左)。高倉式コンポストが海外で広がっていくのは、単に指導するだけでなく、現地の人々と交流を重ね、信頼関係を築き上げていくスタイルが大きく影響している。(写真提供/髙倉弘二)

 スラバヤ市での取り組みは大きな成果を上げ、高倉式コンポストは国際協力機構(JICA)や日本の環境政策シンクタンク・地球環境戦略研究機関(IGES)といった機関からも高い評価を受け、髙倉は活動の場を一気に広げていった。

 ところが、活動が評価されるにつれ、髙倉は大きな問題と直面することになった。「会社員」と「海外技術協力を行う技術者」という二足のわらじに限界が来ていたのだ。

 当初、髙倉の活動は会社からも地域貢献活動の一環として認められ、やがて会社の新規事業にしようという動きにまで発展。調査・実験を重ねて、事業化寸前まで進んだ。だが、最終的に会社が下した判断は、事業化ではなく個人の活動としてほしい、ただし、それを会社としてもサポートする――というものだった。

 高倉式コンポストは、決して髙倉個人の力だけでつくり上げたわけではない。会社の業務として積み重ねた経験、仲間の協力、北九州市や地域の支援で完成し、発展してきた。しかし、この活動をプライベートの時間だけで進めていけるのか――。

 悩みに悩んだ髙倉が出した答えは、退職して高倉式コンポストを世界に広める道だった。

子どもたちの笑顔は髙倉を突き動かすエネルギーにもなっている。(写真提供/髙倉弘二)

意識せずに実践していた
Think Globally, Act Locally.

 髙倉は今、自身の人生を変えた北九州市に「髙倉環境研究所」を構え、代表として、コンポスト技術の普及や環境分野に関わる人材育成といった活動を続けている。

 そんな髙倉が会社員時代から関わっているのが、J-POWERの「エコ×エネ体験プロジェクト」だ。環境問題をひも解く話や実験を通じて、「驚き」「感動」「笑顔」を見せる子どもたちを増やしたい。その思いが髙倉のエンジンになっている。

エコ×エネ体験プロジェクトで、子どもたちに実験を披露する髙倉(左)と、アシスタントを務めるJ-POWERジェネレーションサービス社員のエコ×エネ・スタッフ、河野康市(右)。(写真提供/電源開発株式会社)

「海外で高倉式コンポストの指導をしていたときに『これでやっと、みんなでごみ問題に取り組める』と現地の人に言われたことが、今も印象に残っています。一番うれしいのは、その場所で暮らす人がごみや環境問題に関心を持って、何かに取り組んでくれること。そして、それと同じくらいうれしいのが、子どもたちが環境に興味を持ち、生き生きした姿を見せてくれることです」

 子どもの頃に学んでおくことが、大人になってから「何をすべきか」を考えるきっかけになり、子どもが変わる姿、成長する姿を見た親が考えることにもなる――。そう信じる髙倉の眼差しは、広い世界へと注がれている。

「日本での活動はこれからも続けていきます。ただ、日本には環境問題に取り組んでいる専門家の方がたくさんいますから、私は開発途上国で暮らす方や子どもたちのために、今後は高倉式コンポストだけでなく、住民を巻き込んだ地域の廃棄物管理改善の指導に力を入れたいと思っています」

 かつて「エコ×エネ体験プロジェクト」の運営を担当し、髙倉とともに活動したJ-POWER技術開発部若松研究所の小西金平はこう話す。

髙倉の行動力に触発され、環境保護活動に挑戦する後進も少なくない。自宅のベランダで「高倉式コンポスト」を実践する小西(写真)は、間伐ボランティアを始めたという。(写真提供/小西金平)

「環境問題に言及するとき、よく『Think Globally, Act Locally. (世界を意識して、地域で行動する)』という言葉が使われますが、髙倉さんは20年以上前からそれを実践してきた人です。天然資源をもとにエネルギーを供給している私たちJ-POWERの社員にとって、髙倉さんから学ぶべきことはまだまだたくさんあると思います」

 J-POWERグループの社員として、そして髙倉環境研究所の代表として環境問題の解決に力を注ぎ続けてきた髙倉。今はそれぞれの道を歩んでいるが、J-POWERと髙倉が見据える未来は、実は同じなのかもしれない。

髙倉弘二(たかくら・こうじ)

兵庫県生まれ。大学卒業後、電子部品メーカーを経て、1988年にJ-POWERグループの電発環境緑化センター(現J-POWERジェネレーションサービス)に入社。若松環境研究所(当時の社名はジェイペック)に異動したのち、2004年、北九州国際技術協力協会(KITA)より協力依頼を受け、インドネシア・スラバヤ市でコンポストの技術指導を実施。2016年に髙倉環境研究所を設立し、代表に就任。コンポストの技術指導や環境・エネルギー学習などの活動に従事。髙倉が開発した「高倉式コンポスト」は、東南アジア・中南米を中心に世界各国に広がりつつある。

文:奥田高大 写真:今村拓馬

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